宮廷絵巻ノ抄

6.F ページ7

F side




T「ミツ、本当に可愛かったね！ あれじゃあ、太輔も気になる訳だ」

F「別にそんなんじゃない」

T「嘘ばっかり…」


北山を先に退がらせた後、玉森はオレだけを部屋に残した。


用件なんて、分かり切っている。

でも、気になるのは…玉森が嫌いな権力を使って、勝手にオレたちの今夜の宿直を変更してきたコトだ。


F「北山は、関係ないだろ？」

T「その方が、太輔もやる気が出るかな？と思って…嫌だった？」

F「北山に変に絡むのは、やめろ」

T「さっきミツさ、オレを見て顔真っ赤にしちゃって…オレに気があるのかな？」

F「裕太ッ！」


気が付いたら、声を荒げていた。


玉森は、とっくに気付いている。

だから、今夜宿直の持ち場を変更させて、わざわざここに北山を呼んだのだ。

玉森を前にして、明らかに心を奪われている様子の北山なんて…絶対見たくなかった。


F「何を企んでる？」

T「太輔は、オレの望みを知ってるはずだ」

F「それは…」


今までだって、何度も聞いてきた。

だけど、そんなの無理に決まってる。


オレと玉森は、特別な関係だ。

公的な場においては、主君と臣下…でも、実際は違う。


玉森は、その関係に甘えているだけだ。



T「それだけじゃない。今夜、太輔の宿直勤務をオレのいるこの梨壺にした理由は、他にもある」

F「何か、気になるコトでも？」

T「宮田も言ってた。最近、この梨壺の周辺で変な動きがあるって」


宮田は、天皇家の縁戚に当たる宮家の御曹司…オレが藤ヶ谷家に養子として入る前、いわばオレの生家となっている家系だ。


そんな宮田の最大の関心事は、玉森本人だ。

まぁ、玉森自身は何も気付いていないが、その宮田が敢えて玉森の居住区域である梨壺の異変を伝えるなんて…これは、どういうコトだ？


F「裕太は何も心配しなくていい。宮中は、思っている以上に警備態勢も万全だし、安全な場所だ」

外部からの侵入者に対しては、という条件がつくが、そんなコトを伝えて不安がらせる必要はない。


T「ねぇ、太輔」

F「大丈夫だ。心配いらない」

T「そうじゃなくて、ミツを他の誰かに奪われたくないんでしょ？」

ねぇそれなら、と続けた玉森の真意が読めなかった。

T「オレが、ミツの結婚を阻止してあげよっか？」

F「えっ⁈」

T「でも、その代わり…」

話の展開に気付いたオレは、その場から立ち上がる。


F「北山の結婚は、本人の問題だ。オレには関係ない」


関係ないなんて、嘘っぱちだ。

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