21 - 4 不知火の貴女 ページ19
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「………は?」
『嘘だろ』と、そのような顔で固まるAに、レオは至って真面目な表情を向けた。
「…待ってよ、とてもじゃないけど現実的じゃない
レオと一緒に行く?
…しかもフィレンツェだけじゃなくて世界?
そんなのできるわけ」
「身投げよりは簡単だろ」
あっさり言い放ったレオに、Aはともかく泉や嵐、凛月までぎょっとして振り返った。
勿論私も、背後から剣で突き刺されたような、そんな衝撃。
「み、…!?」
「王さま…!!」
訳がわからない言葉に、意味がわかっているような者は凛月だけで
他は衝撃が先に来て、後にじわじわと疑問が湧く。
その疑問を真っ先に表したのは、当の本人であろうAだった。
「…身投げって、何?」
波の音だけが聴こえる時が広まる。
その後に、波音に溶けるような渇いた笑い。
「……はは
おまえはわかんないんだっけ
ごめんな、こっちの話」
けたけたと笑ったレオは、海を背にして手を広げた。
風に吹かれて、尻尾のような髪が揺れる。
「何でもいいけどさ
今必要なのは現実性とか、そんなつまらないことじゃない
そんなのは後から考えればいいんだよ」
いつもの間抜けな王らしからぬ奇行は何処へやら。
いいや、知っている。
本当に大事なとき、この人は真面目な顔をして言うのだ。
「今大事なのは、おまえがどうしたいか
たったそれだけ」
「…どうしたいかって、」
泣きそうな顔で、Aはレオの言ったことを復唱するだけ。
『現実』と『理想』は、天秤にかければどちらが重要かどうかなんてわかりきっていた。
「…そんなの、」
「…ねえ、Aセンパイ」
誰かが急に喋りだしたって、誰も驚いたような顔でそれを見ることはなく
ただ、静かな海を見ているだけだった。
「…アタシ、あんまり理解できてないんだけど
正直言って、王さまに着いてくとかいかないとか
それはとりあえず今はどうでもよくって」
そう言って静かに海を眺める横顔は、何処か寂しそうであったが、本当に美しかった。
「…あのね、アタシ、好きだったの
あんたが」
白い手が、冷たい水に触れる。
水の中で抉られた土が、波でまた元に戻った。
「…でも、そんなアタシの好きなあんたは
…繰り返して、取り繕われた嘘のあんただったのかしら」
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まひる(プロフ) - 雪羅さん» 時間なんて気にしません!!←ありがとうございます。゚(゚´Д`゚)゚。自分勝手な妄想ばかりですがそう言っていただけると凄く嬉しいです(人*´∀`)他の妄想にもお付き合いいただけると嬉しいです〜(*´∇`)ノ (2020年9月23日 19時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
雪羅(プロフ) - 今更ですが完結おめでとうございます!漫画化、アニメ化してほしいほどまとまっていてワクワクするストーリー、とてもすごかったです。これからもまひる様のお話を楽しみにしてます! (2020年9月23日 8時) (レス) id: 97af87c013 (このIDを非表示/違反報告)
まひる(プロフ) - Mashiro Lioさん» 最後までお付き合いいただきありがとうございました!普通のところとシリアスのところの対比が上手く伝わったようで良かったです(*’ー’*)ノまた、地の文に多少英語があるのは、この第4章の視点が司くんの為、和製英語等は英語表記、ということです(*´-`) (2020年8月17日 8時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
まひる(プロフ) - 無気力のおにぎりさん» 最後までありがとうございました!他の作品も徐々に進めますね。゚(゚´Д`゚)゚。ご期待に添えるよう頑張ります(人*´∀`) (2020年8月17日 8時) (レス) id: f98a768e19 (このIDを非表示/違反報告)
Mashiro Lio(プロフ) - 完結おめでとうございます!「シナリオ『spring』へ戻る。」というのが、わかってはいつつも何だかひんやりした感じを受けて、本編との対比が……。最後は無事「ズ!!」に移行できたということですかね。ところで最後の方、地の文に英語が増えたのは、なぜでしょうか? (2020年8月17日 7時) (レス) id: 97626e8ffb (このIDを非表示/違反報告)
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