2 - 2 希望 ページ10
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とある一軒家の前で足を止める。
見慣れた風景だった。
インターホンを押すと、可愛らしい女の子の声が、弱々しく聞こえる。
「有里です
ごめんね、遅くに」
『…今、いくね』
暗い声が消えたと思ったらすぐに玄関が開き、飛び出してきた子供は抱きついてきた。
震えながら、涙を流して。
「…っ、…助けて、…Aお姉ちゃん」
この日、この時間に来るのは初めてだけど
”妹”の反応はいつもと全く一緒だった。
この涙も、何度見たって心に深く突き刺さった。
「…レオ、部屋にいる？」
「…うんっ、」
「そっか、…少し、お邪魔するね
お菓子、置いていくから」
手にした紙袋をリビングまで持っていき、そこに『るか』も置いていく。
鞄から取り出した、青いイヤホンとウォークマンを操作し、一緒に。
画面には、『レッスン音源』の文字がある。
「それ、今日のレッスンの音源なんだ
泉はいないけど…、凛月とか嵐とか、司も頑張ってるから、聴いてみて？
…きっと元気でるよ」
小さな頭を撫でて、微笑んで。
暗い廊下に歩を進める。
とある部屋の扉を開けると、薄暗い中に佇むひとつの影。
「…曲、書いてるの？」
彼は何も答えようとしなかった。
扉を開けたすぐそこには、”判子おしておいて”という付箋がついたDDDとやらの申請書があった。
「…泉、来たんだね
ちゃんと話したの？」
彼が何も答えないのは分かってる。
何度も何度も試した結果が、それだから。
俯いたままの手元にあった、くしゃくしゃになった楽譜。
それを拾い上げると、腕をガッと掴まれた。
「……、」
「…そんなのじゃ勝てない
勝たせてやれない」
揺れたエメラルドの瞳が、悲痛な叫びを露にする。
目を塞ぎたい。
目を背けたい。
でも、涙は出ない。
こんなにも苦しいのに、悲しいのに
シナリオに無い演者に、そんな資格など無いというのか。
「……音楽は、勝つものなの？
…ステージに立つ楽しさを、忘れたの？」
彼が学校に戻れば、内部粛清が始まる。
彼らは正面衝突する。
彼と泉のヒビはもう戻らない
Knightsの青春もすべて。
それなのに、この時間軸を繰り返すのは
「おまえには、わかんないだろ…っ！！」
何処かで少しでも、変わる可能性があると信じているから。
信じていたかったから。
それもきっと、理由のひとつなんだろう。
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