6 - 4 戦略の唄 ページ40
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「おはよう」
ゆっくり教室の扉を開けると、笑顔が目の前にあった。
「おや、おはよう、A
今日は早いね」
「英智くん
今日は顔色良さそうだね」
お互いに笑いあって、すれ違おうとすると
立ち止まったままの『英智』は小さな声で言った。
「今日、fineのプロデュースだよね
よろしく頼んだよ、”Knightsのお姫様”」
今度は逆に、英智が動きだすのに対して、立ち止まる。
英智の言葉には、必ず意味がある。
彼の中には必ず戦略がある。
「…Knightsのお姫様？」
「おおっ？
扉の所で立ち止まってどうしたんだ？
鐘が鳴るぞ！先生が来る！
おはようA…☆」
その声にハッとして、漸く歩を進めた。
「あ、…おはよう、千秋くん」
傍をスタコラサッサと駆けていく千秋に
普通に歩いて席に座る。
隣の彼は、いつも窓の外を見ていた。
「おはよう、泉」
珍しく眠そうな泉は、ゆっくりとこちらに顔を向け
目をそっと細め、笑った。
「…はい、おはよぉ」
「眠いの？」
「昨日ちょっと出掛けててねぇ
寝るのが遅かったの
…それで、さっきまで寝てたから」
机に肘を付いて、泉は見上げ、隣の机を指差す。
「早く座りな
先生来るよぉ」
「ああ、うん
お疲れ様、泉」
席に付くと、机の中には何か紙が入っていた。
様々なライブの申請書。
そして、
「……え？」
此処にある筈のない、”歌”。
「…Silent Oath…？」
それに隠れたような、もうひとつの紙。
「…、何でこれが、」
「A…？どうしたのぉ…？」
隣の泉に隠すようにそれを机に突っ込んで
咄嗟に出たのは、作った笑顔。
「うっ、ううん、何でも」
「そう…？ならいいけどぉ…」
泉がまたそっぽを向いたのを見て
机から僅かに引っ張り出し、もう一度、目を擦って見た。
「……、…」
此処にない筈の楽譜。
ふられていないはずの歌詞。
そもそも、作られてすらいない筈の歌。
始まった授業をそっぽに、
頭の中では、2人の顔が離れなかった。
この2つの楽譜が”此処”にあるのは
一体何を示しているのか。
机から立ち上がる気にもなれず、珍しく全て出たその日の授業は、
その後少しも覚えてはいなかった。
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春の風は妙に生温く
頬を探って通りすぎた。
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