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「まぁ、もし福添さんが無能ならわたしはこんなにも惚れ込んでいませんし。貴方の為に社長に反旗を翻そうだなんて思ってもみなかったでしょうね」
「私の為に?」
「勘違いしないで下さい。わたしは貴方のことが好きだからというだけで貴方を推しているわけではありません。この数年貴方を傍で見てきて、相応しいと考えたからです。確かに先代の意志と合致しているのは或人社長ですが……。彼らのやり方ではいずれ身を滅ぼします」
雷門が見つかるまで。いや、せめて亜人間を増やす方法が見つかるまでは、AIに人間を滅ぼさせるわけにはいかない。最近滅亡迅雷.netとやらのせいで世間がきな臭くなっている以上、早いところ亜人間を増やし、人間社会に馴染ませなければならないのだから。
やらなければならないことが多すぎて、頭が痛くなる。この間倒れかけて、あまり無理はするまいと決めたばかりなのに。不本意ではあるが疲れ知らずのヒューマギアが羨ましくなる。
「稲荷君?」
「……あぁ、すみません。考え事をしていました」
「疲れているんじゃないのか?また倒れられては困る。あまり根を詰め過ぎないことだ」
「……優しいんですよね、福添さんって。でも、福添さんのことを深く知らない人にはそう見えないんですよね」
「また余計な一言」
福添に頬を抓られ、リコは薄く笑った。
「いつもはわたしが福添さんを慰めてあげてますよね」
「そうだな」
「たまには交代してみる気はありませんか?」
腕を引かれ、強制的に立たされると。そのまま福添の膝に座らされ、この状況に混乱してしまう。まさか素直に要求を聞いてくれるなんて。
「えーと、デレ期?」
「元気そうだから今すぐやめてもいいんだけど」
「あぁっ!そんな!数少ない福添さんからのチャンスを無下にするわけには……!」
慌てて福添の胸にしがみつくと、彼は顔を強張らせたままおずとずとリコの髪に手を伸ばす。そして、不慣れな手つきで小さい子どもをあやすように頭を撫でると、リコは息を詰まらせて立ち上がった。
「やっぱりいいです」
「え、どうして?」
「破壊力が高すぎます……」
「破壊力?」
「ご自身のデレの破壊力をちゃんと自覚して下さい」
「言っている意味が分からない」
リコの顔を見上げれば、その顔は今までに見たことが無いほど真っ赤で。彼女の気持ちに疑念を持つ福添でも、彼女が本気で照れていることはすぐに分かった。「ははーん?」と不敵に笑う彼にリコは額に汗する。
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年9月25日 10時