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ますますヒートアップしていく彼らだったが、それは思わぬ形で終わりを迎えた。山下が社長室へと上がって来たのだ。
「福添さんに命じられましたので、石墨超一郎先生のお宅へ謝罪に伺います。社長にも共に足を運んでいただくようお願い申し上げます」
「えっ?」
戸惑う或人の耳を引っ張り、半強制的に彼を社長室から連れ出す山下。社長室に取り残されそうになったリコは、或人が居ないのであれば此処に居る必要など無いと判断し、急いで彼らと共に社長室を出た。しかし、何故リコを説得に行かせておいて山下を寄こしたのやら。首を捻りつつ山下に問おうとするが、山下より福添に直接聞いたほうが早いだろうと考え直すに至る。
「では社長、専務。私は仕事に戻りますので、お気をつけて」
「絶対に俺が、ヒューマギアは道具じゃないって証明してやるからな!」
「はいはいわかりましたからさっさと行ってください」
わかりましたとは言ったものの、リコにはやはり或人の考えが理解できずにいる。ヒューマギア。いや、AIは人間を脅かす存在でしかないというのに。特にこの未熟な社会でヒューマギアを蔓延させるのは、あまりにも身の丈にあっていないというかなんというか。この環境に社会が追いついていないのは些か危険すぎるのではなかろうか。雷門が「いずれAIが人間を滅ぼす」と言っていたことも頷ける。ヒューマギア管理者筆頭である飛電或人があの調子では、人間が滅ぼされるのも時間の問題だろう。
リコは重荷を下ろすように長い溜息をついたあと、苦虫を噛み潰したような顔を引き締め、副社長室の戸を叩いた。
「稲荷です」
「入りなさい」
指紋認証システムに手をかざせば扉がひとりでに開く。リコは慣れた手つきでセキュリティを解除し中へ入ると、福添のデスクに歩み寄り口を開いた。
「わたしに説得を任せておいて、結局山下専務を使うんですね」
そして、彼の席に回り。しゃゃがみ込んで俯くリコの頭をポンと軽く撫でる福添。彼の意外な行動に思わず顔を上げると、福添は気まずそうに目を逸らした。
「君を見くびってるわけじゃない。何か化学反応が
起こって奴も少しは考えを改めるんじゃないかと思ってたが、やっぱり無理だな……。専務には十五分経っても稲荷君が帰ってこなかったら無理矢理社長を謝罪に連れて行くよう頼んでたんだ」
「福添さんって結果オーライな社長のせいで無能に思われがちですけど、やっぱりやり手ですよね」
「一言余計なんだよ君は」
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年9月25日 10時