たまには交代でも【福添准】 ページ8
「えーと、社長。何からお話しましょうか…」
福添に社長を説得するよう言われ社長室にやって来たリコは、デスクの横に置かれた大きな箱をじろりと見遣って口を開いた。箱の中身は、或人が太客である漫画家の元へ直々に持っていった筈の新しいヒューマギアだ。彼がそれをすごすごと持ち帰って来たために、鬼の首を取ったように副社長組は社長を引きずり降ろそうと騒ぎ立てていた。そして一応副社長組として数に数えられているリコまでもが社長の説得に駆り出され、今一人社長に面と向かっているのである。勿論、彼女も彼女でその漫画家からのクレームを受けた課より「あの社長をなんとかしろ」とのお達しを受けていたので動かないわけにもいかず。無駄な仕事を増やしてくれた或人にジトリと睨みを効かせる。
「まず社長。この仕事は漫画のような夢物語で終わらせられるような事ばかりでないことは承知されてます?」
「……でも、ヒューマギアを道具のように扱う人の所に、うちの大事な商品は置けないよ」
「ヒューマギアは道具ですが?」
さもそれが当然とでも言うように首を傾げ、或人を見下ろすリコ。或人は目を見開き席を立つと、リコの肩を掴んで言った。
「本当にそう思ってるの?」
「ええ、ヒューマギアはヒューマギアという商品以外の何物でもないと考えておりますが。まさか社長、ヒューマギアを人間と同等に考えています?」
「えっ、同等!?いや、同等って言うと少し違う気がするけど。なんていうか……そう!対等なんだ。ヒューマギアと人間は対等であるべきなんだ!」
「勿論、道具として大切に扱うべきとは思います。料理人が包丁を大切にするように、道具としてですけどね。その漫画家だって、ヒューマギアが壊れるまで利用したというだけの話じゃないですか。寧ろヒューマギアの存在意義をちゃんと分かって利用してくださっていると思いますが」
「稲荷さんみたいな考えだから、あの人もヒューマギアに無理をさせて使い潰すんだ!」
「だからそれは道具としての寿命が尽きただけです。光栄なことでしょう?」
「あああもう!なんでそんな冷酷な考えになるんだよ!人間と同じ形をしてるんだから、感情移入しちゃうのが普通だろ!?」
「みんながみんなヒューマギアに感情移入してしまったらヒューマギアにまで人権が与えられ人類は衰退します。距離を持って接するべきです!」
二人きり故、彼らの言い合いを止める者はだれもいない。
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年9月25日 10時