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店員はアロハシャツにグラサンをかけた派手な男が入ってきたことに怪訝な顔をしていたが、あたしの格好を見るとすぐ納得したようにふにゃりと首を曲げこちらに歩み寄ってきた。あぁ来た来た。"どのようなアイテムをお探しですか?"攻撃だ。大体アイテムってなんだよ。RPGじゃねぇんだぞ。薬草をくれと言ったら出すつもりなのか。
「どのようなアイテムをお探しですか?」
「イメチェン」
貴利矢の代わりに短くそう答えれば、店員は「なるほどー!」と大袈裟に目を見開いた。
「冒険しちゃうって感じですね〜?」
アイテムを買って冒険。まさしくRPGだ。偶然の一致に人知れず口角を上げていると、貴利矢が黒と白のボーダー柄のTシャツを棚から取り上げ「どう?」と広げて自身の体にあてる。
「お似合いですよ!」
「まぁ、悪くはねぇんじゃね?」
「"悪くはない"か……。じゃあこれは?」
今度は水色のシャツを取る。
「あー!いいですねぇ!クールな感じに早変わり!これにブラック寄りのネイビーのセーターとホワイトのパンツで……。ほら、キレイめで印象ガラッと変わりますよねぇ!」
「確かに。印象は変わるな」
「零子、なんかそれ語尾に"良いか悪いかは別として"って付いてそう」
「いいから試着してみろよ……」
「はいはい、それじゃあこれ試着で」
「こちらへどうぞ〜」
試着室へと通され、あたしは備え付けられた椅子に座った。フレアスカートの裾が足首にヒラヒラと当たってむず痒い。まぁいつもは客観的に見ればチンピラのカップルにしか思われそうにないが。もし貴利矢があの服装で、あたしがこの格好で歩いたら。普通のカップルに見えてしまうのだろうか。別に普通のカップルに見られたい訳ではないが。だってそんなの、あたしの柄じゃないし。
「終わったけど零子いる?」
「あぁ、開けるぞ」
シャッとカーテンを開ければ、そこにはいつもと真反対の殆どモノトーンに近い服装をした貴利矢が立っており。その光景に思わず呆然としてしまった。試着が終わったことに気づいた店員が駆け寄ってきて、先程の女性店員よろしく「お似合いですね〜!」とワントーン上の声を上げる。
「これに、ウチで売ってるほらこの!黒縁の伊達眼鏡をプラスすると……」
伊達眼鏡を差し出され、貴利矢は素直にそれをかける。
「ほら!良いでしょ?ねぇ、彼女さん!」
「あー……」
「なに、似合わない?自分は割と悪くないと思うんだけどなぁ〜」
「いや、似合う。似合うんだけどよ……」
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年9月25日 10時