イメチェンはほどほどに【九条貴利矢】 ページ23
「結構似合ってんじゃん」
「ふざけんな……」
横から割り込んできた女性店員が、初めて立ち上がった我が子を褒めるような声で「とってもお似合いですよぉ〜！」と、やけに語尾を間延びさせつつ大袈裟に驚いて見せる。あぁ、こういうのが嫌だから適当な店には入りたくなかったんだ。あたしは大きくため息をつくと、鏡に映る普段じゃ着ないようなフェミニンな服を纏う自身を睨みつけた。
久々にオフが揃ったあたしと貴利矢は、恋人になってから初めてデートらしいデートをすることになり。若者に人気のファッションビルへと来ていた。しかし、ナリは所謂ヤンキーみたいなものだが、あたしの中身はただのゲームオタクである。故にどこを見渡しても青春を謳歌する若者ばかりなこの店内では、あたしの本質である陰の部分が「早くここを出ろ」と警告していた。──が、貴利矢に引っ張り回され逃げられそうにない。今だって店員が勧めてきた服を試着させられ、二人の楽しい着せ替え人形状態だ。なんなんだこれは。普通男女逆じゃないのかこういうのって。
「ヘアセットとかしたら、きっともっと素敵ですよ〜！」
「前髪編み込んだらその赤メッシュと銀髪が混ざって絶対可愛いよな？」
「わ〜素敵〜！！きっとこのコーデにぴったりですよぉ〜！」
「貴利矢てめぇ……」
余計なことを言いやがって。大体、こんな可愛い服があたしに似合うわけがない。貴利矢も店員の販売テクに乗せられているだけで。実際は野暮ったい女が頑張ってお洒落しているようにしか見えない筈だ。純白のトップスは袖がヒラヒラしていて落ち着かないし、スカートなんてタイトでカジュアルなものしか履かないため、今履かされている藍色のフレアスカートは、あたしのキャラにはどう考えても合わないだろう。
「零子〜、これ買おうぜ」
「着る機会が無い」
「あるじゃん今まさにこのデートとか」
「着て帰られますか〜？」
「ふざけんな……！」
店員の手前、ハッキリと断わることができないのが辛いところだ。貴利矢に睨みを効かせていると、奴はニヤリと笑って首を曲げた。まさか、あたしが断れないのを見越して言っているというのか。いやまさか、流石にそんなことは……。無いとも言い切れないのが奴の性格である。その顔に段々腹が立ってきたあたしは、グッと歯を噛み締め。奴に仕返しする方法を探した。このアロハ野郎をなんとかしてギャフンと言わせなければ気がすまないのだ。
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作者名：サインバルタ | 作成日時：2019年9月25日 10時
