君との遭遇【不破諫】 ページ20
奇しくもどういうわけか、最近稲荷リコと突然出くわすことが多い。飛電インテリジェンスでの捜査も一段落し、これまで通りマギア出没の通報を受けたら出動する。というパターンが戻ってきた為、本来ならば出くわしてしまう機会が減ってもいいものだが。飛電インテリジェンスを捜査していた時よりも遭遇率が上がっているのは気のせいだろうか。
とはいえ、彼女に遭遇したからといってどうということでもなく。彼女がぎこちなさそうに挨拶をしてきて、俺がなんの気もなしに挨拶を返す。それだけである。関係を持ってしまったことが気まずいらしく彼女はいつも挙動不審だ。この反応を見るに、あの日彼女が言っていた「初めて」というのは本当なのかもしれない。垢抜けた見た目やその時の仕草で玄人だと考えていたが、どうやら違うようだ。
道端での数度目の遭遇に驚くリコは、軽く会釈をして俺の横を通り過ぎようとする。いつものパターンだ。しかし、気まぐれに彼女の腕を掴み俺はノープランのまま彼女を引き留めた。自身の行動の意味が分からず、一瞬思考が停止する。
「ど、どうしたんですか?諫さん……」
「いや、あの……。仕事帰りか?」
「えぇ、まぁ。そうですね。諫さんは?」
「俺は、待機中と言う名の休憩中みたいなものだ」
「まだ仕事ですか……。お忙しいんですね」
「……まぁな」
前ほど気まずさは抜けたようだが、やはりまだ少しぎこちなさが残る。というか、引き留めてしまった理由を作らなければ。何か、何か無いだろうか。そう思索していると。目に入ったビルの屋上にデカデカと表示されたデジタル時計が丁度19時を示す。すっかり日が落ちるのが早くなり既に暗い。辺りは人も少なく閑散としているし、女性一人で歩くのは少し危なそうだ。「家まで送る」と提案すると、彼女は驚いた様子で小さく頷いた。
「あ、ありがとうございます……」
「確かこっちの方だったな」
「はい。でもいいんですか?」
「一人家に送るぐらいの時間ならある」
「なんだかすみません……」
一度関係を持ってしまった以上、知らんぷりも出来ないので仕方ない。福添副社長は彼女を女狐だと言うが、この萎縮した態度は俺から見る限り親離れしたばかりの子うさぎだ。未だ尚俺から目を逸らし居心地悪そうにする彼女は、ただただ前を見据えながら歩く。きっとあの日のことを思い出し「失敗した」と心の中で嘆いているのだろう。
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年9月25日 10時