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「それが嫌だから言わなかったんですよ!」
彼の言うとおり、僕の推しはマカロンズの最年長者であり、リーダーの西城季実子だ。最初はロリキャラかと思って特に気にも留めていなかったが、彼女が愛花ちゃんとジェイミーを引っ張っていく姿、そしていつでもキャラを崩さないそのプロ意識。普段の甘い声からは想像もできないほど力強くハスキーがかった歌声が、いつの間にか僕を虜にしてしまったのだ。
「じゃあ自分がサインもらってきてやろっか?」
「だ、駄目ですよ!今季実子ちゃんは愛花ちゃんのことで沈んでるんですから……!」
「わたしがどうかしました?」
いつの間にか部屋を出ていたらしい季実子ちゃんが、僕らの背後に立っていた。落ち着いてから初めて面と向かって見る彼女の姿に、思わず息を呑んでしまう。
「っ、季実子ちゃ……!」
「実はこいつ、季実子ちゃんのファンみたいで……。こんな時になんだけど、よかったらサイン貰えないかなぁと思って」
「ええ、構いませんよ。わたしも、愛花が無事だと聞いてからだいぶ落ち着きましたから。何にサインしましょうか?」
「あ、じゃあ僕CD持ってるんで……!よかったまだ鞄から出してなくて……!」
3rdシングル"笑顔のジンクス"のパッケージを開き、季実子ちゃんに差し出す。貴利矢さんがペンを用意してくれたらしく、彼女は慣れた手つきでCDにサインすると、僕の顔を見上げて首を傾げた。
「お名前とかメッセージはどうします?」
「じゃあ、じゃあ!"永夢くんありがとう"で!永遠の夢で永夢です!」
「"永夢くんありがとう"ですね……。出来ました!どうぞ、永夢くんありがとうございます」
にっこり、と擬音でも付きそうなほどの満面の笑みに、心臓が大きく跳ねる。可愛いだなんてそんなもんじゃない。神だ。胸を抑えて呻く僕に貴利矢さんが「大袈裟すぎ」と軽くツッコんだ。
「CDを普段から持っててくれているなんて、嬉しいです。お医者さんがファンの方だって知ったら愛花も喜ぶだろうなぁ。あ、明日ジェイミーが来たら、ジェイミーにもサインするように言っておきますね!愛花も……。早く目を覚ましてくれるといいけど」
「大丈夫ですよ。回復したら自然と目も覚める筈です」
「本当にありがとうございました。鏡先生と花家医院の先生にも、助かりましたと伝えて下さい」
「勿論!」
「それじゃあわたし、そろそろ帰ります。明日もレッスンが終わったらお見舞いに来ますので」
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2019年9月25日 10時