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「えっと……。いや、その、え、遠慮しておきます。えっとあれ、そう、今日のメニューは和食なので!」
「確かに、白米食べながらコーヒーはキツイな」
どうやら悪魔のコーヒーは阻止できたようだ。ホッと胸を撫で下ろす季実子に、戦兎、美空、紗羽の三人は憐れみの目を向ける。一番最初に惚れたからといって嘘をつきさえしなければこんなことにはならなかったものを。しかし、自分でも不味いと分かっているコーヒーを季実子に出すとは(本人曰く、人を選ぶ味らしい。だから季実子は選ばれたのだそうだ)。だが、今日は飲まないで済むのだから考えるのはよそう。季実子はとびきりの笑顔で目の前の惣一に「いただきます!」と手を合わせると、箸を菜の花の胡麻和えにつける。
「じゃあコーヒー、食後に出すよ」
惣一の言葉に、季実子のとびきりの笑顔が凍った。
夕飯を美味しく戴き、食後に地獄のコーヒーを気合で飲み干した後。季実子は隠しきれない苦い顔を隠すように俯きながら、自身の鞄を引っ掴んだ。何故だろう、今日のコーヒーはとびきりに不味かった。あんなのコーヒーの味じゃないと半分頭でグルグル考えつつ、目の前の惣一を恨む。いくら愛する男とは言え、流石に今だけは殺意が湧きそうだ。季実子は「ご馳走様でした、そろそろ帰りますね」と、笑顔を引き攣らせたまま挨拶し、立ち上がる。兎に角、どこかで一刻も早く口を濯ぎたい気分だ。「たまには泊まっていけばいいのに」と残念そうな美空の声に苦笑いであやふやに応えて、鞄を肩にかける。惣一と一晩同じ屋根の下という提案は魅力的だったが、明日は朝早くからダンスレッスンが入っていたのだ。低血圧で朝早く起きられないのが悩みの季実子にとって、朝が早い日は出来るだけ近い(季実子の家)所から通いたいのである。季実子は美空に「それはまた別の機会に」と断ると、足早にnascitaを出た。
一方季実子の居なくなった店内では。惣一がじっと紗羽と美空に見つめられていた。見つめられている本人は突然視線が刺さってきた為、何が何やら分からないといった感じだ。ジトリと向けられる四つの目に見つめられ「な、なんだよ……」と答えた惣一に、美空はため息を吐きながら彼の背後に回る。そして紗羽は逆に彼の目前に立ち、彼の手を取ると。二人して一斉に惣一を店の外に投げ出した。
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時