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「お前はいっつもマスターマスターって。本当に俺の気持ちは無視だな」
「でも、そんなわたしが好きなんでしょう?」
悪戯っぽく笑う彼女に目を奪われながら、戦兎は「そうだな」と呟き、自嘲的に笑う。戦兎が惚れたのは、好きな男を健気に見つめる季実子なのだから、彼女の言う通りだ。なんと報われない想いを抱いてしまったのだろうか。帰り支度を始める季実子を横目に、彼は淋しげに笑い地下基地へと入って行った。
惣一は季実子をnascitaに帰した後、彼女の家へと訪れていた。昼前に難波の元へ奪ったフルボトルとパンドラボックスを届ける約束をしていたのだが、それまで時間がある。nascitaに帰るわけにもいかず、ファウストの研究所も、朝イチから不機嫌そうな氷室幻徳の顔を見たくないのであまり行きたくない。だが、季実子の家ならばnascitaと研究所の中間地点にあり、難波重工もそう遠くない為、時間を潰すには持って来いの場所だったのだ。
「ここに来るのは四度目か」
部屋に入るのは二度目だが。鍵は無かったが、お得意の"物の形状を変える力"で中に入ることは出来た。季実子の帰りを待つ中、彼は小さな天蓋付のベッドに腰掛けそのまま寝そべると、目を閉じて息を吸い込める。ベリーとバニラを合わせたような甘ったるい香りが脳をシビれさせる。と、同時に。先程彼女を抱き締めキスした時のことを思い出し。とてつもない羞恥心が彼を襲った。
「──同じ香りだ」
この部屋にいては、どうも季実子のことばかり考えてしまう。部屋の主だからとかそんな簡単なことが理由では無い。甘ったるいこの香りのせいだ。季実子がいつも使っているであろうクッションに顔を埋めれば、更に脳を痺れさせる香りが体中に充満して。いつの間にか懐に入って来て、自身を離すまいとガッチリと拘束する、まるで季実子の存在そのもののようだと彼は嗤った。溜息の様に熱い吐息を吐き、改めて部屋を見渡していると。部屋の主が帰ってきたようだ。扉の前で何やら戸惑ったような声を上げながら、彼女は部屋に入ってきた。
「ちょ、ちょっと惣一さん!ドアノブに何したんですか?なんか、鍵穴が無くなってたんですけど」
「あぁ〜、直すの忘れてた。後で直しとくよ」
「えぇ……。っていうか、どうやったんですかアレ……」
不思議がる季実子に惣一はフと笑うと、持っていたクッションを花瓶に変えると、ベッド横の小さなサイドテーブルにその花瓶を置く。
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時