stage.12【純潔と偽り】 ページ40
「季実子、何処に行ってたんだ?」
明け方。惣一に言われnascitaへと戻った季実子は、そこで待ち受けていた戦兎に先述のように問われた。彼女の手にはコンビニの袋が下がっており、眠たそうに欠伸しながら首を曲げ、にへらと脱力した笑みを見せる。
「化粧を落とさずに寝てしまったので、気持ち悪くって。泊まり用の洗顔グッズを買ってきたんですよ」
険しい表情をしていた戦兎だったが、彼は少しその警戒を崩すと溜息をついてnascitaの扉に手をかけた。
「戦兎さんこそ、何処に行ってたんですか?わたしが起きた時、居ませんでしたけど」
「……炬燵で寝たもんだから汗かいてさ。二階でシャワーを浴びてた」
そう言って二階の鍵を季実子の顔の前でチラつかせる戦兎。彼は「そうですか」と納得する季実子にフと笑いかけると、扉を開け中へと彼女を促す。
「あ、わたし惣一さんを起こして来ようかなぁ。激しく、甘く、優しく!」
「やーめろって。マスターはいない」
それはとうに季実子も知っているが、あたかも「全く知らない」とばかりに首を傾げると、戦兎は後ろ頭を掻き「だから──」と、続ける。
「さっき、バイト先から連絡があったって。急いで出てった」
「え〜!せっかく夜這いしようと思ったのにぃ……。もう朝ですけど」
戦兎は彼女の言葉に答えることなく、呆れたように笑った。「何も知らないで脳天気だ」とでも言うかのようだ。どうやら季実子には真実を告げないことにしたらしい。石動惣一を特別視する彼女には、やはり教えない方がいいと考えたのだろう。季実子が本当に何も知らないのだとしたら、その判断は妥当だ。
「じゃあわたしはもう帰ろっかなぁ。今日も今日とてレッスンですよ」
「大変だなぁ、地下アイドルも」
「ふふ、もうすぐ地下アイドルじゃなくなるかもしれないんですよ」
季実子の言葉に、戦兎は首を傾げる。
「わたし達、県外進出するんです。それが成功したら、もしかしてテレビとかにも出れちゃったりするかも」
「じゃあ、忙しくなるな。あまりここにも来れなくなるか」
惣一がもうここに来ないであろうことを考えれば、今は確かにその方がいいのかもしれない。いずれおかしいことには気づくだろうが、今彼女に真実を告げるのは、戦兎個人的に気が進まなかった。
「そうですね……。でも、時間を見つけて来ますよ。惣一さんにも会いたいですしね」
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時