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振り返ることなく彼は暗闇へと姿を消してしまうのだった。
「待てよ……!」
立ち上がることも出来ないほど痛む体。だがそれよりも辛かったのは、ブラッドスタークが石動惣一であったという、紛れもない真実だった。夜明けとともに響く悲痛な彼の叫びは、同様に真実に胸を切り裂かれた季実子の頭にも痛いほど響いていた。
姿を消したかと思われた惣一は、彼らからそう遠くない、その姿を確認出来る場所で壁に凭れている。戦兎の方は、最初は地に伏せたまま動かなかったがやがてその重たい体を持ち上げると、足を引きずりながらnascitaへと戻っていった。彼に悲しんでいる暇はない。次の行動に出なければならないのだ。決意を固めた彼が季実子の目に見えなくなるほど遠ざかっていく。まるで、これからの自身と戦兎の距離を表しているかのようで、季実子は思わず俯いた。そんな彼女を覆う影が一つ。
「よーう、季実子ちゃん。こんな所でなにやってんの?……なんてな」
惣一だ。戦兎が居なくなったのを見計らって戻って来たらしい。
「いつからここにいることに気づいてたんですか」
「いつって……。まぁ、そんなことはどうでもいいじゃない。聞きたいのは俺の方だよ」
蹲る彼女に視線を合わせるように惣一もしゃがみ込むと、彼は季実子の知っている優しい眼差しを向けて問うた。
「いつから俺がスタークだということに気付いてた?」
その眼差しと相反した、鋭い声色。季実子は俯いていた顔を勢い良く上げると、彼の柔らかな笑みを見据えて口を開く。
「実は俺、悪者なんだよ──って、ブラッドスタークに言われた時です。いや、もしかしたらもっと前から疑ってたような気もします。ブラッドスタークのことが頭に浮かんでいる時、何故だか決まって惣一さんの顔が一緒に浮かんできていたので……。戦兎さん達が、ブラッドスタークは葛城巧かもしれないと言ってた時も、それは多分違うと確信していました」
「なるほどな……」
恐ろしい場面の後だというのに、惣一の表情はやはり柔らかかった。それが季実子の心を惑わせているとも知らず、彼は更に優しい手つきで彼女の頬を撫でる。
「迎えに来なくてもいいです」
「……聞かれてたのか」
先程、美空のベッドで頬に口づけを受けた時の言葉だ。惣一は照れたように少し顔を逸らす。その時、季実子が動いたかと思うと、惣一の首に手を回し。
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時