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戦兎達と触れ合うようになってから、人間らしい感情が芽生えたことは確かに否めない。たまに、本当に美空の父親になったような気分になることもあれば、戦兎達の心の支えになる大人のような存在になっていることも、そこまで悪くないと思える。そして、季実子との恋人ごっこも、何故だか止めたくなくて。惣一は名残惜しそうに彼女の頬を撫でた。

「さて……」

惣一は当初の目的を果たすべく、机に無造作に置かれたフルボトルやパンドラボックスに目を遣ると、万丈と戦兎を起こさぬよう、ゆっくりと歩み寄る。懐から風呂敷を取り出し、それらを風呂敷に包んでいく。やっていることは泥棒というやつだ。形から入るタイプの惣一は、古典的な唐草模様の風呂敷に包んだそれを抱え。大きな寝息をたてる龍我を見遣り、フッと笑う。そして、店内へと続く階段に足を踏みかけたところで。惣一は振り返り、季実子と美空の顔に視線を向けた。何も知らない平和な寝顔。踵を返し、季実子の眠るベッドに腰掛けると。無防備な彼女の頬に口づけをする。

「また、迎えに来るよ。チャオ」

そう声にならないほど小さな声で囁いて。惣一は地下基地を去るのであった。
 惣一が地下基地から出てすぐ。季実子は起き上がろうとその目を開けた。そして、口づけされた頬を指先で抑え、火照る体をギュッと縮こまらせる。──あんなことをされたら、行くしかないじゃない。彼を追いかけるのはつまり、自身も悪の片棒を担ぐのと同義だ。しかしそれでも、彼女は溢れ出そうになる涙を堪え、唇を噛み締め。美空の温もりに包まれた布団の中で、堕ちる決意を固めた。戦兎が惣一を追いかけて地下基地を出ると。季実子も起き上がり、階段を登っていく。扉に耳をあてて外の会話に耳を傾けながら、彼女は惣一との記憶を頭の中で反芻していた。初めて彼を見た時の、全身を電流が貫くかのような衝撃。二人きりの時、初めて感じた心休まる空間。触れられる度に熱く高鳴る胸。彼の優しい眼差し。そして、恐怖と甘い誘惑に揺れた口づけ。しかし、どの場面でも思い浮かぶのは、彼女のことをただ一筋に見つめる、惣一の真摯な眼差しだった。何を考えて悪の道へと落ちたのか、季実子には皆目見当もつかないが。あの地獄の様に不味いコーヒーを我慢して飲んでまで見てきた彼の笑顔を信じたい。それだけが季実子のただ一つの願いだった。

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設定タグ:仮面ライダービルド , 石動惣一 , エボルト   
作品ジャンル:ラブコメ
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時

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