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無駄な足掻きになるかもしれないが、壮大な計画の時間稼ぎがてら、嘘をつくのが面倒でも奴とは話をしておく必要がありそうだ。しかし、バイトがあると言って出てきた為、夕方まではnascitaには帰れそうもない。となれば、もう一人。あまり昨日の今日で顔を合わせたくはなかったが、彼女に会いにでも行こうかと考え付き。惣一はここからそう遠くないアイドル事務所へと歩を進めた。
「あれ、細坪さん、帰るんですか?」
事務所の廊下にて。午前のレッスンを終わらせた季実子は鞄を持って玄関へと向かう細坪に声をかけた。当の細坪は「そんなわけがないだろう」と呆れ顔をしつつ季実子の頭を軽く小突く。
「営業だよ。北都や西都でのライブもあることだし、それを武器にしてなんとかメディア露出を増やせないものかと思ってね」
「へぇ、休む暇無いですねぇ」
「もっとプロデューサー様を労りなさい」
「ふふっ、はーい」
微笑み合い、季実子はひらりと身を翻す。フワリと靡くワンピースや彼女を取り巻く空気は、まるで春の風だと細坪は形容した。
「季実子」
思わず名を読んでしまう。特に話すことなど考えていなかったが、なんとなくこのまま彼女を帰したくないという衝動が彼の心を突いたからである。季実子は細坪からの呼びかけに振り向くと「どうしたんですか?」と彼の元へと駆け寄った。彼女の大きな瞳が細坪の姿を捉える。その瞳に収められた夏の日差しのような煌めき。その熱にくらりとしながらも、彼は答えた。
「いや、その……。よかったら一緒に昼食でもと思って」
「あぁ……。たまにはいいですね。でも、営業はいいんですか?」
「なに、そんなに急ぐことじゃあないさ。それじゃあ、行こうか」
「えぇ」
他人に聞かせるような甘い声ではなく、素の少しハスキーがかった声は秋の儚さを思わせる。二人並んで歩きながら、細坪は彼女を取り巻く季節を見逃さぬよう見つめていた。
だが、彼が一番好きだったのは。
「季実子ちゃん」
そんな細坪に邪魔が入った。季実子の下の名を当然の様に呼び、胡散臭い笑みを浮かべる男。石動惣一だ。彼はトレードマークである丸サングラスを胸ポケットに入れると、真っ直ぐ季実子の元へと歩む。
「そ、惣一さん!」
季実子は煌めく瞳に更に光を閉じ込めた眼差しで彼を見つめ、惣一に駆け寄った。その時の表情を、細坪が見逃す筈がない。それは正に、今まで詞に描いてきた恋をする女の顔だったのだ。
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時