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立ち上がり、駆けて行く愛花を見送る。彼女の姿が見えなくなると、季実子はそっとこめかみを抑えた。未だに消えない違和感。
──実は俺、悪者なんだよ。
惣一の優しい微笑みが頭の中で歪んでいく。あの時感じた嫌な予感が、まさか現実だとでも言うのだろうか。しかし、家に招いた時の彼の笑顔が「違う」と言っている。あんな人の良い惣一が、季実子を天敵から守ってくれた惣一が、全ての黒幕だったなんて思いたくない。季実子は着替え終わった服を全て全て鞄へ無造作に詰め込むと、更衣室を飛び出して走った。nascitaへ行かなければ、惣一に会わなければ。
「違う違う違うっ……。絶対に違う!」
焦燥が彼女を急き立てる。エレベーターのボタンを連打するが、階段で降りた方が早い。彼女はそう考えるより先に、階段を駆け下りていた。清掃員に呑気に挨拶されたが、返している余裕は無い。一階へと降り立ち、ロビーを駆け抜け。季実子は外への重い扉を思い切り押し開いた。そして、nascitaへ続く方向へ顔を向けると。
「季実子ちゃん」
今ずっと頭の中を巡っていた人物が、彼女の目前に現れた。予想だにしていなかった登場に、季実子は数秒固まる。
「そ、いちさん……」
「よっ」
いつもなら惣一を目にすると自然と笑顔が溢れるのだが。彼女の頭にある嫌疑が、その端正な顔を歪ませる。しかし、我に返りこんな顔をしていては怪しまれると思い直し。彼女は無理矢理微笑んでみせた。口角がかなり引きつっているが、致し方無い。
「ど、どうしたんですか?またバイトの帰りに偶然?」
疑念からか、普通の質問にも少し棘が生えてしまう。しかし、そんなことなど夢にも思わない惣一は「いや」と軽く答え、季実子の頭に手を乗せた。
「バイト帰りなのは確かだけど。ここに寄ったのは……季実子ちゃんを迎えに来る為。かな?どうせnascitaに来るだろ?」
心臓が一瞬ドクリと止まる。彼の少し赤くなった頬、季実子を見つめるその優しく細めた瞳。改めて見れば見るほど、彼からの好意を感じる。だとしたら本来は嬉しいどころの騒ぎではないのだが、やはりブラッドスタークの姿がチラついて離れなかった。彼女を撫でる手が温かくて、こんな考え等馬鹿らしいと鼻で笑う自分がいる。だがもし、こんな優しい目をする彼が本当にブラッドスタークだったとしたら。
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時