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その日は額にキスを受けただけだ。やましいことに入るとは思えない。昨夜のキスだけは正直に言うことはできなかったが(今も恥ずかしくて倒れそうだった)。そのことまで話してしまったら、流石 に怒られるどころの話では無いだろう。そもそもそこまで話してしまうなど、自身の心が保たない。彼女は慎重に言葉を選びながら、弁解を続けた。
「彼は、うんと大人ですし」
──本当に?
「わたしに対しての恋愛感情だって、持っているのやら」
──キスをされたのに?
「それに、悪い人ではないので」
──ブラッドスタークかもしれないのに?
「だから……」
言葉の裏で、それらを打ち消す言葉が思い浮かんでくる。同時に昨夜のキスの後、一瞬だけ見えた惣一の表情が思い出され。季実子の背筋がゾクリと震えた。獲物を狙うかの様な鋭い視線。正しく雄の目と言うべきであろうか。彼は間違いなくあの瞬間、季実子のことを女として見ていたのだ。もうこれ以上、彼と駆け引きでもする様な感覚で触れ合うことは出来ないだろう。そこまで考えて、季実子ははたとあることを考え付き、顔を上げた。
「細坪さん、どうしてわたしに彼氏が出来たと思ったんですか?」
「え?あぁ、それは……」
細坪は先程と同じようにトレーナーと顔を見合わせ頷き合うと、また季実子の顔を見遣る。
「さっきの練習中のお前は、まるでこの曲の歌詞を身を持って体験したかのようだった」
細坪の言葉に心当たりしかない季実子は、ギクリと固まった。無意識に彼らから目を逸らしてしまう。それを知ってか知らずか、細坪は彼女にジト目を向けたまま話を続ける。
「一瞬、お前をセンターにした方がいいかと思った位だよ」
恐らく冗談だろう。現センターであるジェイミーは「冗談じゃない」とでも言いたいげに眉根を寄せていたが。
「全く……。お前達にはいつも苦労をかけられっぱなしだな。まぁ、プロデューサー冥利に尽きる限りだけれど。もう少し自分の身辺に気をつけてもらいたいものだね」
もうすぐお前達は誰よりも有名なアイドルになるのだから。細坪はそう続ける。何を根拠にそんなことを言えるんだか……。季実子はそう言おうとして、すぐに口を噤んだ。根拠があることに気づいたからだ。
「北都でのコンサート……ですか?」
細坪は季実子の言葉に「そうだ」と頷く。
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うれい(プロフ) - Haiterさん» コメントありがとうございます!マスターと夢主のやりとりは一番楽しんで書いているところなので、お褒めいただき嬉しい限りです!夢主まで好みと言ってくださるとは……!これからも性格の悪い彼女が暗躍しますが、彼らの幸せを願って下さると幸いです^^ (2018年12月9日 15時) (レス) id: 41522bcf43 (このIDを非表示/違反報告)
Haiter(プロフ) - 初めまして、コメントさせていただきます。マスターとヒロインのやり取りが可愛くてニヤニヤしながら、毎回読ませて頂いてます!ちょっとダークなヒロインも好みで大好きです!これからも更新楽しみにしております(*´▽`*) (2018年12月8日 23時) (レス) id: fd3983f77f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サインバルタ | 作成日時:2018年11月20日 6時