第58話 ページ8
壁外調査はかなり順調に進んだ。
やはり多少の犠牲は出てしまったが、最小限に抑えられていると思う。
そして迎えた最終日。
壁内に帰る道中でそれは起きた。
森の小路を進んでいる時、突如巨人の群れが数隊を挟むように現れたのだ。
その中はA達もいたが、隊列のど真ん中に守るように配置されていた事が裏目に出て、状況が伝わるまでに時間がかかり、前にいたハンジ隊がAにその事を伝えた頃にはすでに巨人の影が見えるような状況だった。
「Aさんは足が悪いので木の上で待機を…」
他の班員がそういうが、Aは首を横に振った。
「しない!私の事はいいから、新兵から先に逃がして!」
そういうなり巨人に飛びついた。
足に多少の違和感はあったが、通常訓練では問題なかった。
それに立体起動装置を扱わせたら自分の横に出る者はそうそういないし、訓練兵卒業時も主席を競ったくらいだ。
木の上で待っていても奇行種かなにかが飛びついて来たら最期なら、自分よりも可能性もあって若い新兵を逃がすべきだとAは考えた。
自分に向かってくる巨人に飛びかかるハンジの隣を凄い速さで追い抜くと、囮になってハンジに討伐をしてもらう。
着地した時にわずかに足が痛んだが、療養期間は伊達ではなかったらしく思いの外やれると確信した。
「何やってんのさ!逃げろって伝令聞かなかったの!?」
大声でそういったハンジに軽く笑いかけるとまたどこかへ飛んで行った。
それからは無我夢中であまり覚えていない。
自分の息をする音と風を切る音だけが頭に響く。
Aは巨人に捕まった兵士を救出する事を優先に動いていたので、それを見かけては飛びかかっていた。
(さすがに久しぶりの実戦はキツイ…!)
木の上で息を整えていると、少し離れた所で悲鳴が聞こえた。
そちらを見ると、奇行種が兵士をつかんでA目掛けて投げつけてきた。
さすがに人間を投げられては木に止まっていられず、そのまま下に落下する。
背中から落ちたので大きく咳き込んで、全身強打のため動けない。
息もし辛いし一気に頭がクラクラした。
今までの疲れもあってか、そのまま目がかすむ。
もしかしたら気絶するのかもしれない。
視界が少しずつ暗くなっていく。
---ああ、死ぬのかな---
そう思った。
---でも、それもいいかな。死ぬ場所が出来た。諦める理由が出来た---
もう少し踏ん張れば目を開けていられそうな気がしたが、Aはそのままゆっくり意識を手放した。
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作者名:ララ | 作成日時:2020年11月25日 0時