隣の芝生は青く見える【続編】 (ページ5)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:9,157 hit

第55話ページ5

夜は巨人が活動しないので、高所に数人の見張りは置いているが平和な雰囲気だ。

昼間先頭を切って走ってくれた兵士たちはもう眠ったのか、あまり人が歩いていない。

松明の光もあまり届かない拠点の隅に座る。

「あー目がショボショボする」
Aは目頭を押さえながら一人でそう呟くと、背後に気配を感じた。
「…エルヴィン」
そこにはエルヴィンが立っていた。
生真面目な彼はこんな時間でもジャケットをしっかり着込んでいる。

「1人で外にいては危険だぞ。それにそんな薄着で」
ブラウス１枚のAに困ったように眉をひそめた。

「大丈夫よ。こんなところで何かしでかす人間なんていないでしょ。エルヴィンこそどうしたの？」
エルヴィンは右手に持ったコーヒーを少し持ち上げた。
そして特に断ることなく隣に座る。
「俺も休憩だ。壁外での醍醐味は夜空を見ることだからな」
Aも夜空を見上げた。

「やっぱり壁の外で見る空って違うね」
「そうだな。どこまで見ても壁がない」

壁内だとどうしても壁が見えるのに、壁の外は空しか見えない。

「…もう行く」
そう言ってお茶を持ったAをエルヴィンが引きとめた。
「なんだ。今、話を始めたところだろう」
「うん。…まぁ」
「俺を忘れる云々の話か」

Aは何も答えない。

「壁外に出たら、いつが今生の別れになるか分からないんだろう。お前が言ったんだ。つれない事を言うな」
「…それ言われたら付き合いうしかないか」
渋々Aはそこに座る。
2人は特に何を話すでもなく、虫の声を聞きながら時々飲み物を飲んだ。

エルヴィンとは昔からこうだった。
何も話さなくても気を遣わなくて落ち着いた。
それにとても安心できた。
だからこうしていると、いつも眠くなる。
足を折ってそこに顔を埋めた。
「A、こんな所で寝るのはやめなさい」
エルヴィンが軽く揺すってみたが起きない。

エルヴィンは小さく笑うと自分のジャケットをかけてやる。
「少しだけだからな」
小さくそういってまた一口、コーヒーを飲んだ。

その様子を建物の影でリヴァイは見ていた。
拠点をうろついていたAを追うように小走りしていたエルヴィンを見かけたので、野次馬心半分についてきたのだ。
エルヴィンがA追っているのではなければ、Aに飲ませてやろうと紅茶を2つ持っていたが、今の様子では出て行くのも野暮だろう。

リヴァイは自分のテントに戻った。