172.イチゴと指と神 ページ4
黎斗との約束通り、Aは仕事帰りにイチゴをたくさん買った。病院の近くのスーパーだったので、そのままCRに持って行く。
消灯後のCRはディスプレイの光だけで、しんとしている。
しかし、その中に、カチカチと忙しくキーボードを叩く音がする。ディスプレイの中を見ると、VRゴーグルを掛けた黎斗が忙しくキーボードを叩いていた。
その姿がかっこよくてつい見とれていると、黎斗がゴーグルを上げ、Aを見た。
ゴーグルの下から覗く顔にドキッとする。何気ない仕草さえカッコいい。
黎斗「A先生、救急の呼び出し?」
A「いえ、お昼に約束したイチゴ、買ってきたので冷蔵庫に入れようと思って」
黎斗「ありがとう、A先生」
よそよそしい黎斗の話し方にすこしへこみながらも、せっかくの夜の二人きりのチャンス。
少し自分から黎斗に近づこうと話しかける。
A「黎斗さん、もし良かったら、今からイチゴ洗いますから食べませんか?」
パッとゴーグルを完全に脱いで、返事の代わりに黎斗がディスプレイから飛び出してくる。
予想外に近い位置に出現した笑顔の黎斗にまたAはドキンとさせられる。
イチゴをたくさんお皿に盛って、目を輝かせてソファで待つ黎斗の前に置く。
「どうぞ」
「ありがとう。あ、、、A先生もどうぞ」
黎斗が左手で自分のソファの隣にどうぞと示した。
Aは黎斗の隣に座る。
こんなに近い距離、久しぶり、、、。
その綺麗な横顔を眺めていると、少し切なくなる。
イチゴに伸びる長い指も、ソファの下に伸びる長い脚も、全部にときめく。
イチゴを食べながら他愛もない話をした。
黎斗の声に、話し方に、視線に、Aは心ときめいて、
イチゴを取ろうとした指が、黎斗の指に触れてしまった時、息がつまる程、胸の奥がキュンとした。
一瞬、イチゴに伸ばした指と指が止まる。
Aは自分で顔が赤くなっているのがわかる。
赤く熟れたイチゴの上で、Aの指と黎斗の指先がそっと触れたまま。
しばらく沈黙が流れる。
その間、聞こえてしまいそうな程、Aの胸はドキドキと鳴った。
触れたままの指先をどうしたらいいのか分からずにいると、黎斗が優しく微笑んでAを見た。
「鏡飛彩の恋人にはもったいない」
「えっ?」
黎斗に真剣な顔で見つめられ、思わず指を引っ込めて顔が真っ赤になる。
「イチゴ、ご馳走様」
またニコッと笑って黎斗はディスプレイに消えた。
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大崎舞子(プロフ) - こはるさん» 初めまして!グラファイトのかっこよさを知っている方に読んで頂けて嬉しいです!いいですよね、グラファイト!トキメイテいただけて光栄です! (2018年7月4日 19時) (レス) id: 82a79b3fc1 (このIDを非表示/違反報告)
こはる - はじめまして、大崎さんのグラファイト作品を全て読ませていただきました!最近エグゼイド を全話見てグラファイトのかっこよさにノックアウトされた者です。大崎さんの書くグラファイトが素敵すぎて時間を忘れて読まさせていただきました。もうトキメキました。 (2018年7月4日 9時) (レス) id: dfc6dee562 (このIDを非表示/違反報告)
しゃけ(プロフ) - 大崎舞子さん» 返信まで有難うございます。また、短編や新作も楽しみにしております。 (2018年2月5日 20時) (レス) id: 6877703fa1 (このIDを非表示/違反報告)
大崎舞子(プロフ) - しゃけさん» こんばんは!読んで頂いてありがとうございます!とても嬉しいコメントです!!趣味で始めたものを素敵と言っていただいて感激です。またよろしくお願いいたします! (2018年2月5日 19時) (レス) id: 82a79b3fc1 (このIDを非表示/違反報告)
しゃけ(プロフ) - こんばんは。全て読ませていただきました。とても好きな話調で、続きをどんどん見たくなって舞子さんが投稿されているお話を全て一気に読んでしまいました。素敵なお話これからもお待ちしてます、ずっと応援していきたいと思います。 (2018年2月5日 17時) (レス) id: 6877703fa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おおさきまいこ | 作成日時:2017年12月21日 6時