暗闇の中で (ページ8)

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5話ページ8

王騎軍said

長平の戦いが秦の勝ちに終わり、多少の領土の変更が起きた。趙から秦になった土地へ敗残兵が向かったと聞いて王騎軍は、少数精鋭を率いて向かっていた。

「何やらあちらが不審ですねぇ」

「ハッ、赤く光っています」

「もはや手遅れかもしれませんが、ここからは飛ばしますよォ」

ハッと威勢のいい声が綺麗に揃う。

王騎が里に足を踏み入れた時には、里は静まり返っていた。

王騎軍の皆が里の惨劇を見た時初めに感じたったことは、異様な赤さだった。里の者はもちろんのこと、趙兵まで殺し尽くされている。

誰も生きていないのか、しかし一体誰が趙兵を？
その疑問の答えはすぐ近くにあった。

全身血まみれの人間がたった一人で立っていたのだ。

もはや男か女かさえも分からないそれは、左手に大事そうに首を持ち、右手には真っ赤に染まった剣を持っていた。

それは、こちらに気づいたのかゆらっとこちらに顔を向け、光の無い目でこちらを見つめた。

王騎は血に染まり、月明かりに照らされた姿に不覚にも目を奪われた。なにか人間では無いように思わせる存在感があった。

王騎が近づこうとすると、それは何かをつぶやき、一気に距離を詰め斬りかかってきた。

騰が王騎の前に飛び出す。

騰は剣を交えた瞬間に弱い、と感じた。ほとんど相手からの力を感じなかったからだ。しかし、敵は予想と違う動きをした。

振った剣の勢いを利用して騰を一回転さながら飛び越え、そのまま王騎に斬りかかった。

王騎はその剣を矛で受ける。

その剣は、小柄な身体からは想像できないほど重い剣だった。

そしてその時初めて王騎は、相手が少女であることに気づいた。

少女の表情からは、何も読み取れない。恐ろしい童だと王騎は思った。

あまたの戦場で戦ってきた王騎でさえ戦慄するほどの殺気を放っているにもかかわらず、気配を感じとれない。
どこか儚い印象を受ける少女だった。

しばらく矛で防いでいたが一向に少女が攻撃をやめる様子がないので、王騎は反撃に転じた。

王騎が矛を振るうと、少女はそれを流す。
少女は、隙を探しているようだった。

突然、少女の気配が消える。

風が吹くがごとく、少女は王騎のは背後から首を狙った。

王騎は直前でそれに気づき、ほこを向けると少女はそれを流し、王騎の首へ真っ直ぐに剣を伸ばした。

予想外の攻撃に王騎は、左手を振り上げ少女の腹部を殴り飛ばした。

少女の小柄な身体は吹っ飛び、もう火の消えた瓦礫の中にうもれる。