Love*3-44 ページ44
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「ほら、これ」
「、」
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差し出されたそれを、鞄を持っていない方の手で受け取る。
ふわ、と彼の匂いがするそれは。
この前まで、私の手元にあったものだ。
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「香水振ってやろうかと思ったけど、流石にな、」
「…」
「だから今日着てきた、」
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よく見れば、
朝来たときの恰好と、少し違う気がする。
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「持って帰りな、」
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そう言って、ぽん、と頭に大きな手が乗る。
ぎゅう、とそれを胸に抱えて抱きしめた。
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嬉しい。
だけど、カーディガンもパーカーも私に預けるなんて
彼も、私があの家に帰れないって、心のどこかで思ってるんじゃないか。
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だとしたら、
このパーカーは、離れることの象徴のような気がして、
帰れないと暗に言われている気がして、なんだか苦しい。
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落ち着く匂い、私が大好きなそれ。
だけどこれが消えると、また苦しくなるのを
私は知ってるから、思わず目を伏せてしまう。
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私のことを考えてくれるのも、思ってくれるのも、
嬉しいのに、
心の中に落ちている気持ちの破片とリンクしなくて、
どうしていいか分からなくなる。
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「もうすぐ終わりでしょ、舞台」
「…うん」
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もうすぐ″終わり″。
きっとあなたは最後まで来る気はないんだろう。
一番、見て欲しかったのに、褒めて欲しかったのに。
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コンサート程じゃないにしろ、
一度にあんなに多くの人が集まる場所に、
噂の渦中の人が訪れたら、きっとすぐに情報が広がる。
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"今"じゃなくて、"先"を見るのは、
堅実的な彼らしい、理解だってできる。
だから、気づかないふりをする。
気持ちを埋めて隠せば、なかったことになることを、私は知ってる。
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ぎゅ、と唇を噛む。
彼が嫌う″リスク″を強要することは、
単なる″我儘″でしかない、だから、言わない、言えない。
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「はやく、帰っておいで」
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私に掛けたその言葉は、
どこか願望のように聞こえた。
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「これ、ありがと」
「うん」
「じゃあ、帰るね」
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お疲れ様、と言って今度こそ楽屋の外に出る。
″帰っておいで″に返事ができなかったのは、
なんだか無責任な気がしたからで。
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それで、泣きたくなるのは、
自分の責任だ。
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始まりがあれば終わりもある。
だけど「クイーン・マリー」が終わったって、
この生活が終わる保障なんて、どこにもない。
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そういう、ことだ。
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