Love*3-35 ページ35
(翔side)
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タクシーで指定された飲み屋に向かった。
堂々と表から入って、裏口から出してもらう。
路地裏に止まった見慣れた白いバンは、事務所の移動車だ。
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なんの躊躇もなくそれに乗り込むと
運転席には、Aの担当マネージャーが乗っていて
俺の顔を確認すると、お疲れ様です、と挨拶をしてアクセルを踏んだ。
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発進した車は、
見知らぬマンションの地下駐車場に入る。
芸能人があまり好まないようなマンションだ。
セキュリティも甘そうで、週刊誌も目を付けないような。
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そこに用意されてある、黒い車に乗り換えて、
再び地上に出たそれは、入り組んだ道を通りながら
Aが住む場所へたどり着いた。
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「朝の5時半に迎えに来ます」
「…了解、」
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合鍵で鍵が開いた部屋に身体を滑り込ませながら返事をする。
腕の時計は2時半を指していた。
…3時間か。
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廊下を進んで付き当たりの扉を開けると、
ほぼ何もない、殺風景な部屋。
カーテンはぴしゃり、と閉められていて開けられた気配がない。
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ぐるりと辺りを見回して目についた扉を開けると、
真っ暗で、雰囲気で寝室だと分かる。
そっと、近づく。
ゆっくり上下する掛布団から、ぴょこり、と覗く頭は、
Aのものだ。
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長い髪の毛を指先で払う。
ぺたり、と張り付いたそれは、もしかしたら涙かもしれない、と思った。
小さく丸まった彼女が、
ぎゅう、と指先で握っているのは、黒いパーカーで。
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「…俺の、か」
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通りで、探してもないと思ってたんだ。
…持って行ったのか、Aが。
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眠っているはずなのに、
パーカーを握る指の力は思いのほか強くて、思わず笑ってしまう。
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「、かわい」
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指先で頬を撫でる。
目の下は少し窪んでいて、痩せていることが、一目で分かる。
頑張りすぎだ、すこし。
きっと、止めたって無駄なんだろうけど。
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「A、」
「…」
「会いに来たよ、」
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目尻にそっとキスを落としたら、
身体をもぞ、と動かした彼女が、ゆらりと目を開けて何度か瞬きを繰り返した。
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無意識なのかパーカーに鼻を埋めている姿が、
幼くて口元を緩めながら頬を撫で続けると、
暗闇の中で俺を見つけたAが、
ひゅ、と息を止めて小さく睫毛を揺らした。
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