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兄妹。
そう、私たちを繋ぐ関係性はそれだ。
兄は、ひどく何も出来ない人だ、と言うのはその通り、だから私はここにいる。
だからこそ私は、兄にとてつもないギャップを抱いてしまう。
小説家。そう、小説家だ。
担当さんからいただいたお菓子を放置してしまったりするほどのズボラだけど、だからこそ、兄が世間から稀代のミステリー作家と称される文章を書けることに、私はいつも驚き、そして笑ってしまう。
だと言うのに、私は兄の小説のファン1号でもある。
兄の文章を始めに読むのは、いつも私だった。これはきっと妹だからこその特権であり、また次回作の取材だなんだというそれに付き合えるのも、妹であるが故の特権なんだと思う。
「A、少しいいですか?」
「どうしたの、兄さん」
「次回作のことで取材に行こうと思うんです。最近良く名前を聞く、天才中学生赤司征十郎くん、とかどうでしょう。絶対面白いシリーズが書けます」
「……アポは取った?」
「いえ、これからです」
兄はひどくワクワクした様子でどんなシリーズにしようかと考えを頭中に巡らせているのか、あまり見ない嬉しそうな表情をその顔に浮かべた。
そんな兄を見て小さくため息をつき、私は静かに兄の机の上を指さした。
「取材は良いけど、その机の上の食べ切ったカップ麺くらい片付けてくれる、兄さん」
私がそう言うと、兄は少し不貞腐れた様子で「……今やろうと思っていたんです」とだけ言って、クローゼットの取っ手に手をかけた。
クローゼットを思いっきり開けたかと思えば、兄はその場で数秒停止。そんな兄の肩を後ろから軽く叩き、「服を決めるのはアポ取ってからにしたら?」と告げる。
しばらくだんまりを決め込んだ兄は、それから程なくして「……分かりました」と言い、携帯を手に取り、何故かまた動きを止めた。
「今度はどうしたの、兄さん」
「Aも一緒に来てくれますよね?」
「予定によりけり、だけど」
「……来てくれますよね?」
小首を傾げた兄は、捨て犬のような、何処か澄んだ水色の双眼に私を映してそう言った。
私は兄のそんな瞳に弱いことを自覚している。そして、私がそんな目をする兄にめっぽう弱いことを、兄は知っている。
「……分かった、行くよ。兄さん」
私が口にしたそんな答えも、兄はきっと、想定済みだったんだろう。
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堕天使ルイ - なんか、ちょっと内容が分からなくなってきました。自分の理解能力の無さでw 続き楽しみにしてます。更新頑張ってください。応援してます。 (2018年3月20日 21時) (レス) id: 3344530ea6 (このIDを非表示/違反報告)
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