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低い、声だった。優雅にゆったりと気品を感じる立ち居振る舞いだった赤司くんのそれとは思えないほどの。
その威圧に、その重圧に、押し潰されそうな感覚さえ覚えた。私の腕を掴む兄さんは、そんなものなど恐ろしくもない、と言わんばかりに跳ね返す勢いで言葉を返す。
「返せ……なんて、どの口が言うんですか?Aの手を離したのは君なのに」
「……あの時の俺に力はなかった。手を離したんじゃない、離させられたんですよ。むしろ俺は被害者です」
赤司くんのひどく冷めた瞳の奥には、何かの熱が渦巻いていた。
「……まぁ、先生の甘さですよね。俺に気付かず、Aさんと簡単に引き合わせて下さって。感謝してますよ、先生」
「……僕、子供相手に暴力沙汰なんて起こしたくないです」
「本当に甘い。……俺は、Aさんを取り戻すためなら法だって犯せますよ」
そう言い切った彼は、もう一度私たちに近づいてくる。
「Aさん、俺、言いましたよね?貴女は忘れているだけだ、と」
「え……ぁ、」
「すぐにでも思い出せます。大丈夫、俺が一緒ですから。だから……こちらへ来てください。もう、辛い思いは絶対にさせません」
再度私へと手を伸ばした赤司くんは、その鋭い視線で私を射抜いた。
その時、ぎゅっと私の腕を掴んでいた兄さんの手が離れる。直後、兄さんは私を思い切り抱きしめた。
「行かないで」
「に、いさん……?」
「……行かないで、A」
兄さんの我儘は今に始まったことじゃない。
だけど、赤司くんが言う「兄さんの嘘」と、兄さんが言う「手を離したのは赤司くん」、そのどちらも私には分からない。理解出来ない。
過去を思い出したいのか、知らなくてもいいから今まで通り生きていたいのか。
「……。」
さあ、と伸ばされた手。
行かないで、と回された手。
ずっとずっと、私を支えてくれたのは兄さんなのに。私は兄さんを待っていたのに。
どうして、どうして兄さんの手を取る、そんな簡単なことを躊躇っているんだろう。
「……。」
頭の中はぐちゃぐちゃで、何かの記憶らしき映像がよぎっては消える。
「Aさん」
「A」
選べない。
「選べない……」
選べないよ、分からないよ。
兄さん、ねぇ、兄さん。頭を撫でてよ。安心させて。
これが夢なら、覚ましてよ。
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堕天使ルイ - なんか、ちょっと内容が分からなくなってきました。自分の理解能力の無さでw 続き楽しみにしてます。更新頑張ってください。応援してます。 (2018年3月20日 21時) (レス) id: 3344530ea6 (このIDを非表示/違反報告)
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