いつか共に...(土方歳三) 3 ページ25
吉野は側の座敷に案内して、酒を用意させる。
運ばれてきた銚子を手に吉野は酌をする。さすが島原の太夫。巧みな話術で土方の気持ちを解きほぐし、下戸な土方はたちまち出来上がってしまった。
「綺麗な髪だな...」
土方の手が吉野の髪に触れすくように撫でる。
「いややわぁ、童のような髪を綺麗いいはるなんて...」
と彼女は笑う。
「いや、綺麗だ。お前...名はなんだ。」
「あら、名乗っとまへんでした?失礼いたしました。」
「いや、吉野っていう源氏名じゃねぇ。本当の名を...」
はっ、彼女は固まる。が、すぐに苦笑混じりの笑みをたたえ、
「うちの名前知ってどうなさるおつもりで?」
と、酒をつぎ足す。
はたっと土方は考える。こいつの名前を知ってどうするのかと。彼女を妻や妾とするなら話は別だが、そんな気は正直念頭にもなかった。これから激動の時代が始まる。いつ死んでもおかしくない。もし、彼女が身受けの話を受けてくれたとしてもとてもじゃないけど、幸せにしてやれる状況ではない。
「土方はんがお優しいのは分かりますぇ。せやけど、髪を切ったくらいでそこまで責任を感じる必要はありまへん。」
少し憐れむような表情を見せる吉野。土方が口を開く。
「違う。そうじゃねぇ。」
土方が吉野の手を握る。さすがの彼女も驚いてびくっと身を震わせた。
「俺は新選組の副長だ。とてもじゃねぇが、今は女を囲ってる暇はねぇ。だが...」
瞳がかち合う。吉野の瞳が揺れている。
「全てが終わったとき、お前がもし俺を思ってくれるというなら俺の所に来い。」
土方が刀を取り出す。驚いて声もでない、吉野の前で長い美しい髪を惜しげもなく切ってしまった。それを懐紙に少し包んで吉野に渡す。
「誓いの証だ。お前を愛してる。いらなきゃ、とっとと捨ててくれ。」
最後は投げやりな感じで軽くいった土方に吉野は瞳潤ませ、それを受け取る。
「花の色と人の心は移ろいやすいと言いますぇ、期待しておりまへんが、一応受け取っておきましょう。」
悪戯っぽい笑顔をみせる。その笑顔が唯一吉野ではない、彼女の見せた笑顔だった。
その後しばらくして、土方を探しにきた原田とともに彼は帰っていった。その背中を見送りながら彼女は自嘲する。
よりにもよって新選組の副長とは...。
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雛月のえる(プロフ) - いえいえw書いて貰うのに急かすのは性に合いませんのでw先に斎藤ようこちゃんさんのリクを優先しても構いませんので!!更新頑張れー (2015年1月13日 15時) (レス) id: b493613181 (このIDを非表示/違反報告)
斎藤ようこちゃん(プロフ) - 私の方こそありがとうございます〜。いつも楽しみです。♪ (2015年1月13日 8時) (携帯から) (レス) id: 29bc6add98 (このIDを非表示/違反報告)
リリーラテ(プロフ) - 斎藤ようこちゃんさん» そう言って頂けて嬉しいです!コメントいつもありがとうございます♪ (2015年1月13日 8時) (レス) id: 08492bea53 (このIDを非表示/違反報告)
リリーラテ(プロフ) - 雛月のえるさん» ありがとうございます!どのくらいお時間いただくことになるか分かりませんが、よろしくお願いします!m(_ _)m (2015年1月13日 8時) (レス) id: 08492bea53 (このIDを非表示/違反報告)
斎藤ようこちゃん(プロフ) - 斎藤さん最高です。 (2015年1月13日 8時) (携帯から) (レス) id: 29bc6add98 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:リリーラテ | 作成日時:2014年10月9日 19時