620話 ページ26
「本当だな？！本当に忘れるんだな？！」
和臣は微笑む。
「院長ですか？」
秀雄は、顔をそむけながらうなずいた。
「1人でやっている。
1年位前からで、もう7、8人を手がけたはずだ。
人工呼吸器をつけている本人や、家族から依頼を受けると、まずその当人を個室に移す。
次に、院長の回診日に、今日のカルテを整理するという名目で深夜まで病院に残る。
夜の看護師の見回りは、午後10時と午前2時。
10時の見回りが終わったすぐ後、患者の人工呼吸器の酸素濃度を下げ、その後に麻酔剤と筋弛緩剤、鎮痛剤を、時間を置いて投与する。
患者は、12時前後には息を引き取る。
それを確認して酸素濃度を元に戻すんだ。
午前2時の見回り、もしくは朝7時の見回りの看護師が遺.体を発見する」
和典の考え通りね。
「黒木、A行こう」
和臣は立ち上がり、さっと玄関から出ていった。
私たちも後に続く。
「さてと」
階段を降りながら和臣は携帯電話を出し、画面を動かしてから耳にあてた。
「ああ上杉？斎藤総合病院の院長回診日を調べろ。病院に行けば、どっかに張り出してあるはずだ。なけりゃ看護師に聞くんだ。急げ」
貴和が追いつき、和臣と肩を並べる。
「張り出してあるとしたら、きっとタスクが記憶してるよ」
「北森秀雄を、どうするつもり？忘れるなんて約束をしたら、犯罪を放置することになるじゃない。それでいいの？」
和臣は、電話をズボンの後ろポッケトに突っこみながら立花さんを振り返る。
「オレは、約束を守る。だから北森秀雄の事件については、すべて忘れる。だけど、」
そう言いながら貴和と私に視線を投げた。
「忘れないヤツだっていると思うよ。特に、腹の立ってる狼なんか」
貴和は、その艶やかな目に笑みを含む。
「そうくるよな、やっぱ」
『腹が立つのは、当たり前よ』
親がいるのが当たり前じゃなかった私からすれば、あんなマネ、許せることじゃないんだから。
※※※
和臣の携帯に連絡が入ったのは、そのマンションを出てすぐだった。
和臣はとっさに自転車を停め、サドルにまたがったまま片足をガードレールにかけてバランスを取りながら携帯を出した。
「はい、若武」
その後ろを走っていた立花さんが、すぐ停まると、さらに後ろにいた貴和も、キィッとブレーキの音をさせた。
私も体の向きを変え、スケボーを停める。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 61人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
きょっちー(プロフ) - 翡翠さん» もちろんです！今は少し忙しいので遅くはなってしまいますが、番外編の方にコメントしていただければ、喜んで書かせていただきます！これからもよろしくお願いしますね (2020年8月22日 18時) (
レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 - 久しぶりに書かせていただきます。しばらく見ていなかったのですが、更新されていて一気に見てしまいました。また仲良くしてくださいますか？無理のない範囲でいいので、コメントやリクエストに答えてくれると嬉しいです。よろしくお願いいたします。 (2020年8月22日 18時) (レス) id: f43e9245c3 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 天愛さん» コメントありがとうございます！テスト等の都合でお休みはもらっても、やめることはありません。むしろ駄作者もこれどこまで続くんだろうと、先が見えてない状態なので…。なので安心して、これからを楽しみにしていただけたら嬉しいです！ (2020年8月11日 15時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
天愛 - 早く続きが見たい!!とっても面白いのでやめたりしないでくださいね!更新応援してます!ファイトです! (2020年8月11日 15時) (レス) id: 74d4bab595 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - メロンパンさん» コメントありがとうございます！面白いと言ってもらえる度、駄作者のモチベーションは上がっていきます。これからも、楽しんで頂けるよう頑張っていきます！ (2020年8月8日 22時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：きょっちー | 作成日時：2020年8月6日 22時
