619話 ページ25
「さ、若武先生、A先生、突撃準備はいいかな」
私たちは、2階に上り、204号室の前に立った。
「どうやるの?」
立花さんが聞くと、貴和は、少し眉を上げた。
「それは、若武先生にお任せだ。詐欺師の腕の見せどころだろ」
笑った立花さんに、和臣は、いやな顔をしてにらんでいたけれど、やがて決心したようにドアに向き直り、そのドアフォンを押した。
【はい】
聞こえてきたのは、確かにあの北森秀雄の声だった。
「あの、隣の部屋の近藤と言います。昨日、警察が来て、北森さんのことをいろいろと聞いていったので、父から、北森さんに伝えておけって言われてきたんですが」
ガチャッと鍵の開く音がし、ドアがわずかに内側に開いた。
瞬間、私がその隙間に足を突っこみ、閉められないようにしながら腕を入れる。
『和臣、貴和、押してっ!』
ドアに飛びついた和臣たちが力任せにそれを押し、ドアはジリジリと開いていった。
私はその隙間に体を押しこみながら、向こうに立っていた秀雄の足を蹴り飛ばす。
秀雄は、声を上げて後ろに倒れ、その隙をついて中に飛びこみ、秀雄の腕を後ろ手に拘束した。
間違っても、皆に攻撃できないように。
「なんだ、おまえらっ!」
秀雄は、怒鳴り声を上げながら後ずさろうとするが、私がいるので動けずにいた。
「出ていけ。警察を呼ぶぞ」
和臣が少し笑った。
「警察?あなたがそれでよろしければ、どうぞ。でも、もし警察が来たら、僕は、あなたの父親の北森啓太郎さんが今、どうなっているかを話しますけどね」
秀雄は、真っ青になった。
「北森秀雄さん、取引しませんか」
そう言いながら和臣は、秀雄の前にしゃがみこむ。
「僕にとっては、あなたが年金目当てに遺体を隠したり、斎藤総合病院の院長を脅して500万を手に入れたことなんか、どうでもいいんです」
さりげなく悪事を並べられて、秀雄は目を見開き、震え出しながら和臣を見上げた。
これだけ何もかも知られていて、トボケられると思うほどのバカではないらしい。
「僕が興味を持っているのは、斎藤総合病院で安楽.死を実行している人物と、犯行方法なんです。全貌を教えてください」
いつになくていねいな言葉でやさしく話しかける和臣は、天使を装っている悪魔そのものだ。
「それを教えてくれさえすれば、あなたのしたことは忘れますよ。どうですか。そんな取引ではないと思いますが」
秀雄はしかたなさそうな顔つきで、自分の前にいる和臣をにらみ上げた。
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きょっちー(プロフ) - 翡翠さん» もちろんです!今は少し忙しいので遅くはなってしまいますが、番外編の方にコメントしていただければ、喜んで書かせていただきます!これからもよろしくお願いしますね (2020年8月22日 18時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 - 久しぶりに書かせていただきます。しばらく見ていなかったのですが、更新されていて一気に見てしまいました。また仲良くしてくださいますか?無理のない範囲でいいので、コメントやリクエストに答えてくれると嬉しいです。よろしくお願いいたします。 (2020年8月22日 18時) (レス) id: f43e9245c3 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 天愛さん» コメントありがとうございます!テスト等の都合でお休みはもらっても、やめることはありません。むしろ駄作者もこれどこまで続くんだろうと、先が見えてない状態なので…。なので安心して、これからを楽しみにしていただけたら嬉しいです! (2020年8月11日 15時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
天愛 - 早く続きが見たい!!とっても面白いのでやめたりしないでくださいね!更新応援してます!ファイトです! (2020年8月11日 15時) (レス) id: 74d4bab595 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - メロンパンさん» コメントありがとうございます!面白いと言ってもらえる度、駄作者のモチベーションは上がっていきます。これからも、楽しんで頂けるよう頑張っていきます! (2020年8月8日 22時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2020年8月6日 22時