590話 ページ46
「今、病気で、これから病院に連れて行くとこなんだ。忙しいから帰ってくれ」
そう言うなり、背中を向けて、家の中に入っていった。
和臣は、大きなため息をついた。
「くそっ、初めっから、×だ」
和彦が肩をすくめる。
「病気じゃ、しかたないよ。これから行く家にも、病気の人、多いかもしれないね。なにしろお年寄りだから」
いや、この家はおそらく・・・。
「今、取るから。じっとしてて」
貴和の声に現実に引き戻される。
見ると、立花さんの肩に小さな虫が止まっていた。
「あ、自分でできるから大丈夫。ハート虫って、ニブいから」
立花さんが肩の布地をつかんで揺すると、その虫はハラッと落ち、途中からふんわり飛んで、そばにいた和典の二の腕に留まった。
「こいつ、ハート虫っていうのか」
和典は、中指でメガネのフレームの中央を持ち上げた。
「変な名前」
立花さんは、少し笑った。
「うちの妹のネーミング」
和彦がポケットから虫めがねを出し、前かがみになる。
「上杉、動くな」
じっくり観察してから、体を起こした。
「これは大蝶蠅だよ。蠅の一種で、下水管やトイレや風呂場なんかの、汚れや滑りが溜まっている場所で集団発生するんだ」
和典は一撃でそれを仕留め、その家の駐車場に遭った水道をひねって手を洗った。
「それにしても」
和彦が家をながめ回す。
「たくさんいるよね、この家」
見れば、窓の内側のカーテンに、黒く見えるほど大量に集まっていた。
その窓の向こうからこちらの様子を見ていた男と目が合い、私は確信した。
「もう行こうよ。ここにいてもしかたないし」
立花さんの言葉に和臣はうなずき、貴和に聞いた。
「次の家は?」
すると貴和は、手にしていたスマホに視線を落とした。
「今、そっちにデータ送るよ。オレ、ここに残るから」
『私も残るわ』
私は車の陰に身をひそめ、貴和も操作を終えて入ってくる。
「あの男の態度、なんか気になる。本当に医者に行くかどうか、確かめてみるよ」
その瞬間、和臣を除く皆の目から目に、生き生きとした光が走りぬけた。
「オレも残る」
そう言ったのは、和典だった。
「ボクも」
「あの、私も」
和彦と立花さんも言った。
和臣が我慢できないといったように両手を腰に当て、身構えて皆をにらんだ。
「オレたちは、社会奉仕団なんだぞ。探偵チームじゃない。残るのは、黒木とAだけだ。さぁ行くぞ」
皆が去っていき、その場には私と貴和だけが残った。
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きょっちー(プロフ) - シーエル目つぶしさん» コメントありがとうございます!トップ3なんて…本当に嬉しくて、私もベッド蹴って壁殴りましたwwテスト期間も終わり、やっと更新できて、私も嬉しいです。これからも頑張って、トップを目指します!これからもよろしくお願い致します! (2020年8月6日 22時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
シーエル目つぶし(プロフ) - あの、、、すみません、、、この作品、お気に入りの中でトップ3に入るくらい好きなんですが、めっちゃ更新されてて10秒固まり深呼吸をしてベット蹴って壁殴っちゃったじゃないですか!w (2020年8月6日 21時) (レス) id: 7ab4427546 (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 雫さん» ありがとうございます!雫様もテスト、無理をせずに全力を出してきてください。楽しみにしていただいているなか、お休みをもらってすみません。なるべく早く更新できるよう、頑張っていきます! (2020年7月18日 20時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
雫(プロフ) - 私も今期末テスト中です(一緒ですね!)!きょっちーさんが書く物語がとても面白く毎日楽しみにしています^^ これからもっと暑くなるので、熱中症などに気おつけて下さい!もちろん新型コロナウイルスにはもっと気おつけて下さいませ! 応援しております^^ (2020年7月18日 19時) (レス) id: 2ccaeb30df (このIDを非表示/違反報告)
きょっちー(プロフ) - 紗奈#さん» ありがとうございます!お待たせしてしまうのは心苦しいですが、頑張ってきます! (2020年7月18日 15時) (レス) id: 22142a784e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きょっちー | 作成日時:2020年6月21日 10時