傾国のひとりごと (ページ31)

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がしゃん、と何かが落ちる音がする。
芋と雑穀を煮た粥と茶、すりおろした果実がばらまかれる。

「こんな、下賤の食べ物を梨花さまに食べさせる気？作り直しなさい」

派手な化粧をした若い女官は、まなじりを上げていた。梨花妃につく侍女の一人である。

(あーあ...もったいない)

ため息をまじえながら皿を拾い、こぼれた食事を片付ける。

Aがいるのは、水晶宮。
梨花妃の居住である。

あざ笑うかのような目、さげすむような目、敵意をあらわにする目。

玉葉妃に仕えるAにとっては敵地も同然、針のむしろだった。

梨花妃を診るにあたってまずはじめたのが、食生活の改善だった。

現在、毒おしろいは壬氏の言により、後宮内では使用不可となっている。卸した業者があれば、ひどく罰するよう徹底したらしい。

ならば、身体に残った毒を排出することが先決だ。

今までの梨花妃の食事は白がゆが盛ってあるものの、魚の素揚げのあんかけに、豚の角煮、紅白の饅頭、ふかひれや蟹といった豪華な料理である。
胃腸の衰えた病人に食べさせるには重すぎる。

だから、自分で作り直すことにした。勅命ということで、Aにもそれなりの権限が持たされていた。

繊維質の豊富な粥に、利尿作用のある茶、消化のよい果実。

残念なことに、先ほど床にぶちまけられた。

玉葉妃に仕えていた容貌悪しき下女が気に入らないのだろうか。

では美人になれば良いのかというとそれはそれでAが窮地に陥りかねない。

言いたいことはたくさんあるが、ぐっとこらえて片付ける。

粥がぶちまけられた後、新たに侍女が絢爛豪華な食事を持ち、梨花妃のもとへ運んでいった。しばらくするとほとんど手も付けられずもどることとなる。
残りは端女たちのご褒美となるのだろう。

触診を行いたいところだが、天蓋付の寝台のまわりには侍女がまとわりつき、恭しくも全くなっていない看病を行っている。寝ているところにおしろいをはたけば、咳のひとつもでるものなのに、

「空気が悪い。下賤のものがいるからだ」

と、部屋を追い出されてしまった。

(あのままでは、衰弱死は確実ね)

毒の排出が間に合わないのか、それとも気力が足りないのか。
食をとらねば人は死ぬ。生きる気力をなくしているのだろう。

Aが自身にとって最悪な道を選ぶことを本格的に考え始めた時、周りから嬌声が聞こえた。

ものすごく嫌な感覚がして重々しく顔を上げると、ものすごく綺麗な顔がすこぶる陽気に笑っていた。