傾国のひとりごと (ページ29)

今日:25 hit、昨日:290 hit、合計:129,841 hit

　　　　　漆ページ29

「後程わかったのですが、これは詐欺だったのです」
「詐欺？」

先に身請け話をした男は、あとから身請けした男の知り合いだった。妓女が病のふりをするとわかっていて話を持ち出し、破談にする。そして、本命が半額で身請けする。

「妓女はまだ年季が残っており、男は身請けする銀が足りなかった」
「その妓女と芙蓉妃は同じってこと？」

幼馴染の武官は武勲を立てていつの日か姫を迎えに行くつもりだった。

しかし、姫は政略により後宮に入ることになる。武官を想っていた姫は、得意の舞踏を失敗して皇帝の気を引かないようにしていた。
案の定、身はきれいなままである。

武官が武勲を重ね、次の勲功で芙蓉妃が下賜されるとなったころ、彼女は怪しげな徘徊をするようになる。
間違っても皇帝が芙蓉妃を惜しいと思わないように、御手付きにならないように。

御手付きになれば、下賜されるのは当分後だ。芙蓉妃にとっても夜伽を行った時点で幼馴染に顔向けできないだろう。

東門で踊っていたのは、戻ってくる幼馴染の祈願のためでもあったのかもしれない。

「なんていうか、帝については、なきにしもあらずね」

寵妃は苦笑した。
好色な皇帝が武官がそこまで望む姫に興味を持たないとは言い切れなかった。

　

「ねえ、A。
芙蓉妃がうらやましいなんて言ったら、私はひどい女かしら」

Aは振り向いた。
寵妃の横顔からは、何も読み取ることができない。

「そんなことはないと思います」

Aは玉葉妃の目を見つめながら、静かに言った。

玉葉妃はそう、とだけ言うと、少し笑って芙蓉妃の出て行った中央門の方をながめた。

_______________________

後に聞いた話によると、今回の芙蓉妃の下賜は、例の異民族討伐で村人の処罰を止めた、という功が決め手だったらしい。

そんなことをできるのは。
Aはすぐに一人の天女の笑顔の青年を思い浮かべたが、すぐにかぶりをふって頭から追い出した。
憶測が過ぎると、とうさんに怒られる。

(それにしても、あんなに高い城壁に、芙蓉妃はどうやって上ったの？)

首をひねるも、答えはわからなかった。