陸 ページ28
少し時間をさかのぼる。
幽霊見学の翌日、Aが向かったのは小蘭の元だった。
小蘭はAに会うなり、玉葉妃のことを根ほり葉ほり聞き出そうとしたので、さしさわりのない情報と交換に幽霊騒動について聞き出した。
それが起き始めたのは半月ほど前。最初は北側で見つかったらしい。
それからまもなく東側で見つかるようになり、毎晩見られたとのこと。
衛兵たちは怪談話に恐れをなして、なにもしない。
今のところ害があるわけでもないので、誰も何も処置しようとしないらしい。
まったく役立たずな警備である。
次に向かったのは、やぶ医者の元。
守秘義務という言葉を知らないこの医官は聞いていないことまで話してくれる。
最近、元気のない芙蓉妃のこと。
息を吐けば飛び去りそうな小さな属国の三番目で、姫という肩書でありながら上級妃にもなれないご身分。
北側の棟持ち、舞踏が趣味だが小心者で、皇帝の御目通りの際失敗している。
踊りを除けば特に目立った容姿でもなく、入内から二年、いまだ御手付きもないらしい。
今度、下賜される先は、幼馴染の武官の元だというので、幸せになればいいということ。
(なるほどね)
Aの頭の中でなにかが組みあがった。
しかし、推測の域を出ないそれをいうのはどうであろうか。
(とうさんが推測でものを話すなって言ったもの)
だから話さないことにした。
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色白の元妃は頬を染めて中央門をくぐる。
その幸せを感じた明るい頬に皆が嘆息した。
下賜されるならこうでありたい。
そんな光景が広がっていた。
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「私にくらい話してもいいんじゃないかしら?」
一児の母であるが実年齢は二十に満たない玉葉妃。顔には、少しお転婆な笑みが浮かんでいる。
「あくまで推測ですので。あと、気分を害されなければ」
「自分で聞いておいて、腹は立てないわ。それに、口は堅くってよ」
(それなら)
Aは、妓楼の夢遊病者の話をした。
壬氏の前でしたものとは別の、もう一人の夢遊病者の話だ。
前の妓女と同じく、身請け話が持ち上がったところで病になり、そして破談になった。
しかし、その後も夢遊病は止まらず、薬を処方しても気休めにすらならなかった。
そんな妓女に新たに身請け話が持ち上がる。楼主は、病気ものを身請けさせるには忍びないといったが、それでも身請けしたいということだった。しかたなく、前の話の半分の銀で契約は成立した。
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作者名:泉 | 作成日時:2024年1月18日 22時