その人、沢村先輩の妹ですよ。【奥村光舟】

7月31日。 ページ7

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タイムを取った御幸さんが、スタンドからでも分かる程の大きなオーラを放つ降谷先輩が立つマウンド上に近寄る。

逆転されたとは言え、1点差だし青道打線ならこのピンチを乗り越えられるはずだ。

「………この回を守りきらないと、攻撃は回ってこない」

私の心を読んだかのように、隣で同じようにグラウンドを見詰める杏ちゃんがポツリと呟いた。

確かに杏ちゃんの言う通りだが、次は9番打者。
いつもの降谷さんなら、力でねじ伏せられるはずだ。

だが、頭の片隅に残っている、良いとは言えない今日の降谷さんのピッチング。

頑張れ、降谷先輩＿＿＿！！

「降谷先輩！1点差ですよ！
気持ち楽に行きましょう！！！」

私の声にこちらを向いた御幸さんが降谷先輩の胸にまるで鼓舞するように、手に嵌めているキャッチャーミットで叩く。

御幸先輩がマウンドを離れると、帽子を取りながら汗を拭う降谷先輩の表情が少し見え、ズキッと心が痛む。

あれ、なんかこれって……。

降谷先輩自身、あまり表情が変わらない人だから気のせいだと思うが、私は降谷先輩の表情に、いつかの兄ちゃんと重ねてしまった。


試合が再開され、スタンドが湧く。

だが降谷先輩の投球は定まらずにボールが先行された。
そしてやっとストライクが入った次の5球目、金属音の音が鳴り、ボールは倉持さんのグラブを僅かにすり抜けた。

そこから勢い止まらず、気付けば得点ボードに3から5の数字が刻まれていた。
盛り上がる市大三高ベンチとは変わり、こちらの青道ベンチは静まり返っている。

だからだろうか、やけに市大三高の声援が余計に耳につく。

これ知ってる。
状況は別物だけど、勝利が近づくにつれボルテージが上がる中、1人マウンドに立つあの人は、逆に焦りを抱え、自滅していったことを。

あの日はとても暑かったな。




私は口元にメガホンを近付けた。






「みんないますよ！！！降谷先輩！！
1人で戦ってる訳ではないんですよ！！」




そして、降谷先輩はこの回3つ目のフォアボールを出した。

もしかしたら、私の声は届かなかったかもしれない。
それか、邪魔で余計に制球が定まらなかったかもしれない。

だけど、あの夏みたいに後悔するのは嫌だ。
今この時、声を掛けれなくて何がマネージャーだ。


メガホンを持つ手が一層強くなる。


そして、グラウンドに背番号18の選手がマウンドへ走り出した。

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