天才作曲彼女【笠松幸男】 (ページ34)

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第３４話ページ34

『・・・へ？』

理解できない。

見間違いかと何度も瞬きして見直すけれど
やっぱり見間違いなんかじゃなくて。

下を向いていて気づかなかったけれど
彼の顔は真っ赤で嘘じゃないって伝わってくる。

『・・・ごめんなさい』

私も好きです、って簡単に言葉にできたらどれだけいいことか。

だって、

耳の聞こえない私じゃ
歌えない私じゃ

彼の足枷になるだけだ。

私は彼の重荷になんてなりたいわけじゃない。

だから。
だから。

泣くなんて駄目。

私が泣いていいわけがない。

・・・早くここから去ってしまおう。

笠松先輩の目に入らないところでひっそり泣けばいいから。

『えっ？』

そう思っていたのに。

笠松先輩は私の腕をつかんだ。

「―――――」

涙が流れないように必死で、
ぼやけた視界では口の動きを認識しきれなかった。

わけの分からないまま私は笠松先輩に腕を引っ張られ、
彼の胸の中に体を預ける形になってしまった。

『せん、ぱい？』