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ずるり、がぶり、それに溜息。 ページ5

訳が分からない。
すりぬけて、ない。

確かにお椀の破片は僕の手に刺さっていて。

茜色の血が、出てくる。それはもう大量に。


「もう、疲れたんだ」

「は?」

「一つだけ言っておくけど」

「なんですか」

「君たち、負けるよ。いつかはわからないけど大事な時に。」

じゃあ、と言って窓から植木に飛ぶ。もちろん破片は刺さったまま。



「もう、いいかな」

花宮クンの家からけっこう離れた、立ち入り禁止の公園。
こんなところまで、追ってはこないだろう。
まず、追いかけられるわけもない。赤の他人だ。

ブランコの手すりに、左の手のひらを思い切りぶつける。
これで、動かなくなればいいのに。
動かなくなればいいのに!

ずるり、と破片は僕の手をすり抜けて、落ちた。

別に、痛くともなんともなかった。


「なーにやってんのさ」

「…なんだい、高尾クン。君には愛想を尽かされたと思ったんだけどなぁ」

「んー、尽かしては無いけど?なんで破片が刺さってたのさ、すり抜けるんじゃなかったっけ」

フェンスの上から僕の答えを待つ君は、ニコニコしてた。
気持ち悪いくらいの作り笑いだった。

「本当は、すり抜けるんだけどね」

へぇ、と呟いてから君はフェンスから飛び降りた。
それから、僕の左手首をものすごい力で掴んで、僕の顔を真っ直ぐ見て言った。

「俺の大事なモノなのに、逃げないでよ」

「勝手にすり抜けて行かないでよ」

「お願いだから、帰ってきてよ」

強い目だった。
その目に僕は映っていたのかな。

「いいよ、帰っても」

高尾クンの顔がほんの少し明るくなる。
ただし、と僕は続ける。

「外出許可はもらうよ」

「んー…。いいけど、誰のところに行くかは言ってね」

がぶり、と噛み付くようなキス。
僕はされるがままに、そのキスを受け入れた。


「じゃ、行こっか」

「うん」

そのまま他愛もない話をしながら、高尾クンのお家にお邪魔した。


「ねぇ、和成」

「どーして僕を拾ったの?」

「気持ち悪いとか思わなかったの?」


かすれるこの体が、気持ち悪いとは思わなかったの?

一息ついてから、和成は言った。

「別に?かすれててもかすれてなくても、お前は俺の大切なモノだから」

「そうかい」


大切なモノか、と僕はため息を漏らした。

生きてきた、生きてこれちゃった僕。→←視力、陶器のお椀、刺さらない破片。



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霧崎沙流@天ぷら系女子(プロフ) - [忘却王]れおさん» 面白かったですか…。とても嬉しい限りです。こちらこそ、この作品を最後まで読んでくださりありがとうございます。 (2014年3月29日 22時) (レス) id: 212878b2bc (このIDを非表示/違反報告)
[忘却王]れお(プロフ) - 完結おめでとう。すごく面白かったです。終わらせ方も好みでした。ありがとうございました。 (2014年3月29日 22時) (レス) id: 8ad14d2c12 (このIDを非表示/違反報告)
霧崎沙流@天ぷら系女子(プロフ) - ★黒猫★さん» コメントありがとうございます!更新頑張ります! (2014年3月20日 18時) (レス) id: 212878b2bc (このIDを非表示/違反報告)
★黒猫★(プロフ) - 続きが気になります.更新がんばってください! (2014年3月20日 16時) (レス) id: a547ed74fa (このIDを非表示/違反報告)
★黒猫★(プロフ) - 続きが気になります.更新がんばってください! (2014年3月20日 16時) (レス) id: a547ed74fa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:霧崎 沙流 | 作者ホームページ:http://yaplog.jp/kirisaki73/  
作成日時:2013年7月19日 21時

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