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さっきの人が付いてくるかもしれないと思うと怖くて、そのままレジで会計をすると急いで車に戻る。
すぐさま車を出し後ろに付いて来る気配がないと分かると、二人して大きく息を吐き出した。
「大丈夫か?」
「大丈夫だけど、さっきの人そういう気はなかったかもしれない。ただ俺が怖くて」
「いいんだよ、そんなの気にしなくて。何かあってからじゃ遅いし、藤ヶ谷が無事なことが一番だから」
「……うん、ありがとう」
北山が俺を一番に考えてくれることが嬉しかった。だがこのままじゃ一人で出かけるなんて無理な気がする。
「一人で出かけられるとしても、怖いって気持ちはなかなか消えないだろ? だから藤ヶ谷が一人で大丈夫、て自信がついたらでいいんじゃね」
「でも、もしかしたら一生つかないかも」
「んはは、それなら一生付き合わないとだな」
出来ると言われていることが怖くて出来ないなんて、ただの弱い奴みたいで情けないと思っていたけど、北山が笑ってくれるから許されている気がした。
「まあとりあえず帰って鍋にしよっか」
そう言うから驚いて思わず助手席を見る。
「なんで知ってるの?」
「なんでって、買ったもの見たら分かるだろ」
買い物を終えたら帰っちゃうんじゃないかと思い、鍋だって言ったら付き合ってくれるかもなんて考えていた。俺の考えがバレた訳ではないだろうが、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「今日寒いから」
取って付けたような言い訳だったが、北山は確かに寒いよなーなんて言いながら薄曇りの空を見上げた。
その時ふと甘い香りが鼻を掠める。
「北山、香水つけてる?」
「ううん、何もつけてない。なんで?」
「なんか甘い匂いがした気がして」
この数週間、何度か北山から甘い香りがしていた。
ふわりと香るようなものだし周りの様子からも同じ病気だとは思わないが、もしかしたら前兆なのではないかと心配だった。
「んー、もしかしたらこれかな」
そう言ってコートのポケットから飴の袋を取り出す。
「りんご味で美味しいんだよね」
りんごの匂いなんかじゃないのは分かっていたが、掘り下げるとよくない気がして「そうかも」と曖昧に答えた。
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ちび(プロフ) - めっちゃわかります、私も匂い、香りとか良いですよね、記憶に残りますしね、私もめっちゃ色気感じます、好きな話でした。 (2023年4月27日 0時) (レス) id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
くらげ(プロフ) - ちびさん» ちびさん、沢山読んでくださりありがとうございます。匂いってめちゃくちゃ色気あると思っているので匂いが盛り込まれている話を多く書いている気がしますが、文字から匂いを感じてもらえたら嬉しいです。匂いに関する話をまた書いた時は読みに来て下さると嬉しいです。 (2023年4月27日 0時) (レス) id: 4781cdc11c (このIDを非表示/違反報告)
ちび(プロフ) - こちらも読ませてもらいました、設定楽しいですね。イチャイチャめっちゃ嬉しくなりましたわ、可愛い2人ですね、でもこれFKは本当セクシーだから香りありそうですよね。いい匂いするね、なんか、のですね😊 (2023年4月16日 22時) (レス) @page19 id: ff59837987 (このIDを非表示/違反報告)
くらげ(プロフ) - 雅さん» 雅さーん!あの描写からKさんがいつもFさんを気に掛けているのを読み取ってくださりありがとうございます。そういうものとして書いていたので確かに!と思いました。どんな関係か分からない二人を書くのは久しぶりでしたが私も好きです!いつもありがとうございます! (2022年12月6日 20時) (レス) id: b17685444c (このIDを非表示/違反報告)
雅(プロフ) - こんばんは!Kさんが予定があると断ったのに連絡してきたところ、Fさんの病気のこともあるけれど常に気にかけてるのが伝わって素敵でした!そして結局家に行っちゃうんですよね(*´ω`*)お互いがまだどんな関係位置にいるか分からない時のFKもとても好きです! (2022年12月4日 16時) (レス) @page14 id: 533dfc9d96 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:くらげ | 作成日時:2022年11月26日 17時