小さな箱。19 ページ20
*
結論から言うなら、そう。
ウィンターカップ、オレ達海常が優勝することは出来なかった。
準決勝で誠凛に二度目の敗北を期したオレ達は、決勝の舞台に進むことすら出来なかった。
黒子っちは強かった。あの時、パスはいらないと捨てたはずだった。
黒子っちのパスがなくても、点が取れるって。
確かにオレは、そうだったかもしれない。
それは赤司っちも、紫原っちも、緑間っちも、そして……青峰っちも、きっとそうだった。
ただ、それだけだった。
「……黄瀬くん」
試合終わり、控え室から一人出て来ないオレを心配したらしい羽屋っちが顔を覗かせた。
それから、「入るね」と控えめに告げて静かに控え室へと入って来た。
「…………」
何も言えないまま、タオルを被って座っているオレに、羽屋っちは何も言わなかった。
暫くオレから離れた場所でオレを見ているようだったが、少しずつオレの方へと寄って来た羽屋っちは、タオルの上からオレの頭を撫でた。
「お疲れ様、黄瀬くん」
他にもきっと、何か言いたいことがあったと思う。
もっと励ましの言葉を、用意していたんだと思う。
だけど、羽屋っちはただそれだけを言った。
「……、っ、羽屋っち……」
だから、オレは声を絞り出した。
絶対に、声を出したら涙が堪えられなくなることを知りながら。
みっともなく泣く姿を晒してしまうことを知りながら。
「……オレ、……悔しいよ、ほんとに……悔しくて……っ」
「うん」
「なのに……っ、何でか、安心、してる自分もいて……」
「うん」
「なんか……気持ち悪いんスよ、悔しいのに、良かったって思ってて、……それが、気に食わなくて……」
「うん」
何を言っても、羽屋っちは否定も肯定もしなかった。
だけど、それで良かった。オレが今欲しかったのは、否定でも肯定でもなくて。
ただ、聞いていて欲しかったから。
それからぽつりぽつりと話し、気が済んで涙が止まる頃には、羽屋っちの手がオレの頭から離れようとしていた。
「待って、」
「え、?」
「まだ……頭、……撫でて、て……欲しいっス」
羽屋っちは、やっぱり「うん」と答えて、オレの頭を優しく撫でた。
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西谷彩香(プロフ) - kirakirahikaru0さん» コメントありがとうございます!そう言っていただけるととても嬉しいです!元々4年前に書き上げた作品でしたが、未だこうして誰かに見て貰えるというのはありがたいです。本当にありがとうございました! (2019年6月20日 5時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
kirakirahikaru0(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます!!最後はうれしくて泣いてしまいました。 (2019年6月20日 1時) (レス) id: 094bc50104 (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - ミリイ(灰崎信者)さん» コメントありがとうございます!この作品のリメイク更新も進んでいないので、終わり次第考えたいと思います。ご意見ありがとうございました! (2019年4月27日 19時) (レス) id: 5f1947d42c (このIDを非表示/違反報告)
ミリイ(灰崎信者)(プロフ) - 祥吾様の小説も書いて欲しいです (2019年4月27日 17時) (レス) id: 99fc6b4eef (このIDを非表示/違反報告)
西谷彩香(プロフ) - イチゴ・オーレさん» ありがどうございます!これからもよろしくお願いします!良ければ、他作品もご覧下さい! (2015年10月18日 11時) (レス) id: b540071b0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:西谷彩香 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kunimi251/
作成日時:2015年9月26日 22時