副業は武装探偵社員、本業は死神。 (ページ26)

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”稲瀬”と言う人ページ26

「せんば、い…。」

稲瀬は起き上がると、俯いた。

「先輩、ごめんな「”ごめんなさい”は聞かないよ。」

…え？」

私は稲瀬の言葉を遮り、そして彼女の視線を私に向けるように優しく彼女の両頬に手を添え、私の方に向けた。

「謝るな。

…確かに貴方のしたことは間違っている。
謝って済むような事じゃないこと。

誰もが貴方を責めるかもしれない。

けれど、私はそんな事気にしないよ。」

「え？」

私は彼女から手を離し、割れ物を扱うかのように優しく抱き寄せた。

「…今まで頑張ったね。

辛かったね。

気付かなくって御免ね。」

「なん、で。

なんで先輩が謝るんですか…！？

悪いことをしたのは、私なんですよ！？」

彼女は泣いていた。

透明な涙が一粒、二粒と目からこぼれ落ちていく。

「うん、そうだね。」

私は稲瀬が泣き止むまでそのままの体制でいた。

私が知らないだけで稲瀬はずっとずっと辛くて悲しい思いをした。

”頑張ったね”

その一言さえあれば、彼女は変わっていただろうか。

彼女が泣き止んだ頃を見計らって、私は彼女から離れた。

「澤村さん、スガさん。」

「嗚呼。」

私と入れ替わるように二人が彼女の元へ行く。

きっと彼等は私の言いたいことを判っている。

「”稲瀬樹奈”、貴方の処分が決まりました。」

「稲瀬、お前には生きてもらう。

完全に死んではいないお前をこのまま死神でいさせるわけにはいかない。」

その言葉に彼女は驚きを隠せなかった。

自分が生きていることをちゃんと自覚していなかったからだろうか。

「…判りました。」

稲瀬がそう言うと強い風が巻き起こった。

彼女の体がどんどん透けていく。

「稲…樹奈ちゃん！後悔だけはしないよーに！！」

「はい！！天沢先輩、有難う御座いました！」

最後に見た彼女はとても可愛かった。

彼女は戻っていっただけ。

何も悲しいことはない。

人生なんて山あり谷ありって言うから、面倒で嫌になることが多い。

後悔だってする。

【なんで生きてんだろう】

そう思うこともあるかもしれない。

…でもそこで諦めちゃったら何も出来なくなる。

辛くなれば休めば良い。

命だけは捨てるな。