百四十三枚目 ページ3
Aside
「涼太先輩はなんであの布団の人と仲良くしてるんですか?」
「Aっちと?なんで…って」
掃除時間、集めたゴミ袋を持って校舎から中庭の廊下に出ようとしたら外からそんな会話が聞こえた。
私は咄嗟に壁に背をあて隠れてしまう。
ダメだこのままじゃ盗み聞きすることになる。
悪趣味だし、この場から去るかいっその事その場に出てしまえばいいのに、この時の私の体は動かなかった。
この声、この前黄瀬に好意を寄せているとみた1年生だ。そしてその本人黄瀬。
黄瀬は1年の女子からの質問にうーーんと悩むように唸っていた。
「…私、あの人凄く怖いです。何考えてるか分からないし、布団かぶってるし…」
「んー…」
「あんまり変な人に近づかない方がいいですよ!涼太先輩の、評判まで悪くなっちゃいます!」
他人の人付き合いまで口を出してくるのは、正直どうかと思うが彼女の言葉も頷けて。
確かにそうだよなー、と。
素直に彼女の言葉を受け止めれた。
しかし胸のあたりがざわつくのは、なんでだ。
「……それに、先輩は気づいてないと思うけど」
「んー…」
「あの人、とっても意地悪なんですよ!
私の友達にバスケ部のマネージャーの子がいるんですけど、その子がこの前すごい悪口言われたって言ってました!
二年生の先輩に聞いた話だと脅された人がいるとか…。
それに三年の先輩が言ってたのはいつも寝てるくせにテストの順位がいいからカンニングしてるとか…!
あの人の顔見たら死ぬとか、そういう悪い噂ばっかりある人なんですよ?
涼太先輩があの人と関わるメリット、全然無いじゃないですか!」
私先輩が心配で…とか弱い声を出すが、私の事散々いっちゃってさあ?
いろいろ否定してやりたいけど、私は盗み聞きしてる身ですし、私以外が別に困ってるわけでもないので黙って聞くかこの場を去るかしか自分の中には選択が無い。
興奮したり、憐れむような声を出したりと忙しい彼女の話を黄瀬は相変わらずうーん、と唸って聞いていた。
そもそも聞いてんのか?と怪しいくらい。
彼女もそう思ったのか、また必死に声を上げた。
「もっと関わる人、選んだほうがいいです!涼太先輩のためにも…!」
「そうっスよねぇ」
さっきまで唸ってばっかりの黄瀬が、やっとちゃんとした言葉を発した。
そしてその答えに満足したのか、嬉しそうな声を上げた彼女。
そしてまたずきりと胸が痛んだ私。
ゴミ袋を握る強さが、知らず知らずに強くなっていた。
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作者名:こたきんぐ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Kotakinnhu/
作成日時:2023年1月28日 0時