【文スト】【文豪ストレイドッグス】短編集【中原中也詰め】其の6

大正浪漫喫茶店逢瀬【ラムネ様リクエスト：大正浪漫、軍人中也】 ページ44

『なぁ、知ってるか？』

その言葉で始まる、噂話。
軍医だった森鴎外が率いる特殊部隊が編制されたという。

殺戮に特化した精鋭部隊。

話は次第に、この部隊の噂と対で語られる人物へと移っていく。

特殊部隊大佐、中原中也。

およそ大和の者と思えぬ茶の髪に、異人のように青い瞳。
小柄ながら、剛力の持ち主として名高い男である。

『この間の戦では、愛刀で六尺もある敵を縦に両断したらしいぜ』
『ひぇ、すさまじいな。さすが…』

佳境に入った噂話。
二人の男の横で、高らかに鳴ったのは軍靴の音。

「流石【鬼の子孫】かァ？」

二列並んだ金釦に、内張の躑躅色を翻らせる長外套。
其れを眼にして、男達の顔が引きつる。
恐る恐る。上げられた視線が捉えたのは、軍帽を被った中原中也の笑顔だった。

「こんな人の多い茶店で他人の噂話とは…感心しねェなァ」

ひっ、と男達の喉が情けない音を立てる。

「今回は見逃してやる。
だが…二度目はねェぞ」

ひらり。外套を翻して歩む。
色硝子越しの、午後の陽光が中也を照らす。

「ったく」

舌打ちを一つ。
戦争に色めき立つ町で、人々は敵を『鬼畜』と呼んだ。

だから。容姿が敵国の兵に近い彼を影で【鬼の子孫】などと揶揄する者もいるのだ。
まったく以て胸糞悪い。

靴音荒く、店の奥に設えられた個室席に向かう。

『中原様、何かありましたか？』

個室で待っていた少女が、心配げに眉尻を下げる。
それだけで、中也は胸の苛々が霧散していくのを感じた。

「大丈夫だ、流華。
手前ェの顔を見て落ち着いた」

少し身を屈めて唇を落とす。
彼女は、頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。

「悪ィな、待ち合わせ遅れちまって」

懐中時計を確認する。約束の刻限を五分程過ぎていた。
詫びると、『いえ』と小さく微笑む。

流華はある華族の令嬢だ。
とある戦の祝宴で出逢い、惹かれ合って二人はこうして秘かに逢瀬を重ねていた。

席に腰を落ち着けた中也は給仕に彼女の紅茶と、自分の珈琲を頼む。

『中原様、また…お話を聞かせてください』

眼を輝かせる彼女に、中也は今日はどんな話をしようか、と目を細めた。

――――

リクエストを頂きました。
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2016年12月3日ちょこ

打開案【黒鶫文佳様リクエスト：「打開策」続篇】→←人形師と訪問客 【如月レン様リクエスト:人形師シリーズ続編】

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