第6話【回想その1-2】 ページ8
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「もちろん強制はしないけれど、Aちゃんが好きなことをやって楽しそうにしているのが、おばあちゃん一番嬉しいからねえ……」
「うん……」
そう言って、弱々しくなった腕でぎゅっと抱きしめてくれた祖母のぬくもりを、Aはきっと死ぬまで忘れないだろう。
それから2か月後、祖母は息を引き取った。
他に家族がいないAを手伝って、村総出で祖母の葬儀と埋葬を行った。
死に顔はとても穏やかだった。
「それで、Aちゃん、これからどうするかい?」
一通りのことが済んだ後、村長がAを訪ねてきた。
「ご覧の通りこの村は年寄りばっかりだし、施設も何も無いし。本土の方に行きたいなら行ってもいいんだよ」
「……おばあちゃんが、『パルデア地方に行ってみなさい』って言ってて」
「ほお、パルデア……とはどこのことかな」
「テレビで見ただけですけど……フリーズ村よりもずっと暖かそうな地方で。でも多分すごく遠くて
」
「そうじゃろうな」
「私、おばあちゃんと暮らしたこの村も大好きだから、離れたくはないんですけど。でもやっぱり行ってみたいって気持ちも強くなってて」
「うむ……」
心の中ではもう気持ちは決まっていた。
だけど、言葉にして誰かに言ってしまえば、後戻りができなくなる。
それが怖くて仕方なかった。
「……Aちゃん」
「なんですか」
「若いうちは、興味があるものには正直に生きていいんだよ。なに、もしどうしようもなくなったらまたこの村に戻ってくるといい」
「村長さん……」
「まあ、戻ってきた時に二、三人死んどるかもしれんがのう!」
「縁起悪いこと言わないでくださいっ」
「はっはっは。さあ、出る準備をしておいで!出発はいつにするかい?」
「……次のパルデア行きの船が出る日!」
「よしきた!」
この決断を村の人たちに話すと、一人残らず応援してくれた。
「寂しくなる」と言いつつも、「頑張るんだよ」「元気でやるんだよ」と笑顔で言ってくれた。
家とお墓のことは村長さんが管理しておいてくれると言っていた。
祖母が遺してくれたお金があるから、渡航費用や向こうでの生活の初期費用は賄える。
こうして、Aは小さな村を出て、まだ見ぬ世界へと旅立つことになる。
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作者名:リトルポム | 作成日時:2022年12月17日 1時