第5話【回想その1】 ページ7
.
――――4年半前、ガラル地方、カンムリ雪原フリーズ村。
「おばあちゃん……」
「Aちゃん、そんな顔しないでちょうだい……」
「でも……」
この小さな村で、Aは祖母と二人で暮らしていた。
両親は幼い頃離婚していたし、父親のことは知らないと言っていい。
Aを連れて実家のあるフリーズ村に戻ってきた母は、この近くの洞窟でダイマックスアドベンチャーとかいうアトラクションの開発工事に携わっていた中、崩落事故に巻き込まれて死んでしまった。
それ以降は、夫を早くに亡くした大変な中にもかかわらず、祖母が愛情込めて育ててくれた。
その祖母も、さすがに高齢で、最近体調が思わしくない。
医師に診てもらったところ、やはり病気を患っていたようで、そう長くはもたないと言われてしまった。
「人間誰しもいつかは来る日が、おばあちゃんは気づいたらもうすぐだった、というだけだからね」
祖母は自分自身が死ぬことについては、存外穏やかに捉えているようだった。
「あと気がかりなのはAちゃんが元気にやっていけるか、かねえ……」
「……おばあちゃんがいなくなったら、私どうすればいいかわかんないよ」
Aの足下では、母からもらったイーブイが進化したグレイシアが、悲しそうに鳴いている。
「好きな場所で好きなことをやっていいんだよ。Aちゃんはおばあちゃんと一緒にいてくれたから、ずーっとこの村に居続けたんだからねえ……」
「私が好きなのは、ママとおばあちゃんとシャルだけだもん。好きなことなんてないよ……」
思えば、あの頃のAは、大好きな祖母を繋ぎとめたくて必死だったのだ。
15歳とは思えない聞き分けの悪さだったと思う。
「……それじゃあ、おばあちゃんが一つ提案しておこうね」
「……？」
「Aちゃん、おばあちゃんが死んだあと、諸々終わって落ち着いたら、パルデア地方に行ってくるといいよ」
「パルデア地方……？」
「Aちゃん前にテレビで、ポケモンがクリスタルのようにキラキラする現象を見てとっても気に入っていたでしょう？」
「う、うん……」
「あれね、パルデア地方の『テラスタル』っていう現象なんだって。ポケモントレーナーたちも使えるみたいよ、ガラルのダイマックスのようにね」
「テラスタル……」
「後にも先にも、Aちゃんがあんなに顔を輝かせていたのはテラスタルだけだったからねえ」
「……」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：リトルポム | 作成日時：2022年12月17日 1時
