第10話 ページ15
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「うん。だからこそネモちゃん、心の奥では辛いと思うんだ」
「辛い……?」
チリがポカンと繰り返した。
「チリ姉さんもわかると思うけど、ネモちゃん、ポケモン勝負が本当に大好きなんだよね」
「せやなあ、面白くてしゃーない!って感じやな」
「うん……アカデミーでもよく他の子たちにバトルのお誘いをしてるみたいなんだけど、『天才の君には勝てるわけないから何も楽しくない』って断られることがほとんどみたいなの」
「そうやったんか……『天才』なあ……」
「もちろんセンスもある子だけど、彼女の場合は『好きこそものの上手なれ』の究極形なんだと思う。だからネモちゃんに必要なのは、彼女が全力を出し切っても勝敗がわからないくらいの同世代の友人なんだと思う」
「だからさっき『前回のネモみたいな子が来るといい』って言ってたんやな」
「うん」
「なんやなんや、Aすっかり先生みたいやん!」
チリが嬉しそうにわしわしと頭を撫でまわしてくる。
「わ、ちょっと、髪崩れちゃう!」
「スマンスマン。しっかし、ホンマに先生みたいな着眼点やで。勉強の成果か?」
「そうかも。青少年心理も教育相談論もみっちりやったし。……っあ、チリ姉さんちょっと待ってて!」
「え、A!?」
チリが目線でAを追うと、Aは数十メートル先にいる10歳くらいの男子生徒の横でヤヤコマと戦い、追い払っていた。
今日も相棒のグレイシアが大活躍の様子である。
チリがAに追いついてみると、なんとなく状況を察することができた。
男子生徒が抱えていたのはくさタイプのニャオハ。
対してヤヤコマはひこう・ノーマルタイプのポケモン、相性は最悪だ。
ニャオハがひんしになってしまって、怖くて動けなくなってしまっていたところにたまたまAたちが通りかかったということだろう。
「A、その子大丈夫か?」
「本人に怪我はないみたい」
「お、お姉ちゃん、ぼくの、ぼくのニャオハ……」
震える声で訴えてくる男子生徒に、Aは「大丈夫だよ」と優しく諭す。
「応急処置をしてあげるね」
Aがげんきのかけらを取り出してニャオハに与えると、ニャオハは身じろぎして「はにゃ?」と鳴いた。
「ニャオハ……!だ、大丈夫なの!?」
「はにゃ〜」
「よ、よかったぁ……!お姉ちゃんありがとう!」
男子生徒は心底ほっとした笑顔を浮かべている。
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作者名:リトルポム | 作成日時:2022年12月17日 1時