一の貢 ページ3
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頰に、何か温もりが触れた気がした。一本一本が細く、そして以外にも硬い毛並みのようなものであった。腕を動かしてみれば大きな体躯に爪のある前足。何処か懐かしい感触。
しかしそれを確かめたくとも眼がどうも開かない。頰に触れたものが必ずしも害を与えないものだとは思えないのにである。そうだというのに、頭を擡げる動作すらもできない状態でいた。
冷たい土と膝小僧の真下の石の感触。その石は矢尻のように尖り、深々と膝の肉を抉っていた。その血が付着した青々しい草花と鉄のような香り。そこら中から聞こえる虫の鳴き声。冷ややかな風に思わず身震いする。そんな状態にあっても側に感じる存在はしきりに頰に擦り寄った。
「寒い、凍えそうだ……」
眼を硬く閉ざしたままの状態で地に伏した者は掠れた声を出した。頰に擦り寄る何かはより一層身を丸め、地に伏した者を北風から守るかのように身を横たえた。体躯の大きな何かに寄り添われ、先程の冷ややかな風が遮られる。
「あぁ……暖かい……暖かいなぁ……」
最期の力を振り絞り瞼を僅かに開ければ、黄金色と漆黒の毛並み。それは雲間から覗く微かな月明りに照らされこの世のものとは思えぬような優美さを纏っていた。猛々しい、それでいて内からの力強い咆哮が 辺りに児玉する。
獣虎……。
存在に気づいたものの、その夜は地に伏した者が目を開けることはなかった。
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作者名:希嘉 | 作成日時:2018年12月25日 10時