一緒にゃ行けねーのよ。 ページ2
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夜店や屋台が軒を連ねた会場は、ビルが立ち並ぶ都心のロータリー広場とは思えないほどお祭り感満載で、首からスタッフ証をかけた浴衣姿の係員もちらほら見える。
へー…本格的じゃん…なんて、悠長に眺めてると。
そのうちの1人に目が吸い寄せられた。
「！」
深い紅色に白い小花柄の浴衣に黄色の帯。
初めて見る…
浴衣姿の…A…。
「……」
《ご覧ください！“夏祭り”とあって、今日は案内係のスタッフも全員浴衣姿です。爽やかです！》
レポーターのコメントが入り、会場内がパンで映し出されていき…
同じスタッフ証をして立っている浴衣姿の若い男と笑顔で何か言葉を交わしているAが、再び画面の端っこに見えた。
…んだよ、オレに見せたことのないカッコで他の男とへらへら笑ってんじゃないよ！
仕事とわかってんのに面白くない自分がガキくさくて苦笑する。
あーくそ、まだまだ足んねーなオレ…と自嘲した。
思い起こすのは、ニッシーの結婚式での写真。
オレが連れてくことが叶わない場所で、イケメン君にエスコートされ、見たことないドレス姿で美しく着飾って微笑んでるAを見た…あの時の苛立ちと焦燥感。
Aを取り巻く明るい世界に、オレは手を伸ばすことができない…
事あるごとにそう思い知らされるのは今でも変わらないけども、もうあの時のように何かに駆られた憤りや焦りを感じることはなくなった。
代わりに心を占めるのは、切ないもどかしさと嫉妬。
欲しい未来にまだ届かない自分の未熟さや、Aを独り占めしたいワガママ故の勝手な感情。
浴衣を着るような場所に、オレはAと一緒にゃ行けねーのよ。
見せてもらう機会がないんだから、見たことなくて当たり前。
面白かろうとなかろうと、現実にしっかり向き合ってかなきゃ未来はやってこない。
Aとオレが選択したのは、そーいう途なんだから。
腐ってる暇はない。
すきっ腹に飲んだビールがいい感じで廻ってきた。
きっと、これからもこうして現実と理想との乖離に面白くないと思うことが幾度もあるのだろうと。
そしてそれはAも同じ。
Aとのあの夜がなければ、今でもやり場のない気持ちを1人で燻ぶらせていたに違いない。
母ちゃんが言ってたことが今更ながら身に沁みる。
まだまだやるべきことは山積みで。
思い知らされる度に前を向き、更なる先へと進む。
ただ待ってるだけじゃ、欲しい未来は手に入らないのだから―――――。
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作者名：kico
| 作成日時：2020年7月2日 23時
