58話 ページ9
「海常高校のジンクス、知ってるッスか?」
教室で黄瀬くんに背中を向けながらカバンに荷物を詰めていた私に少し弾んだ声で声をかけてきた彼に、私は「ジンクス?」と問いかける
ジンクスっていうか…、と黄瀬くんは口を開いた黄瀬くんは
少し照れ臭そうに目を逸らした
「ハチマキ交換すると、両思いになれるってやつ」
そう続けた彼の声のトーンが少し低くなったのを聞き逃さなかった私は
その場を誤魔化すように明るい声で「なんか、バレンタインみたいだよね。」と笑った
そんな私の言葉を繰り返して首を傾げた黄瀬くんと
私が顔を上げた瞬間に目があって
また胸がどくんと鳴る
「ハチマキ渡すことが一種の告白みたいになってるってことじゃん?」
その瞬間自分で口にして黄瀬くんのことを思い出した私は、あーたしかに、といつもの声のトーンに戻った彼に茶化すようにつづけた
「黄瀬くん明日はカラフルになりそうだね」
「せめて洗ってからにして欲しいッスわ」
青ざめながらため息をつく彼は、明日はきっとどの生徒よりも主人公だろう
最後の青春の日
2人で教室を出て、階段へと足を踏み出した瞬間に
ぶわっと何か熱い感情が全身を駆け巡る
少しもの寂しさにふけながら階段を降りていると、私が踊り場に着く前に黄瀬くんは階段の途中で足を止めた
「…」
思わず不自然に止まった彼の足をじっと見つめていると
また右足から階段を降りる黄瀬くんに私は違和感を覚えた
「大丈夫?」
思わず心配する声が漏れた私に、黄瀬くんは「何がっスか?」とヘラっと笑って
そんな彼の姿に私は眉間に皺を寄せて、彼の左足へともう一度目を向ける
「左足…痛めてるよね」
私の声に反応してわかりやすく階段を降りる足が止まって
「あー、少しだけッスよ」
彼は沈黙を壊すように笑いながらそう口にした
明日無理をしないで欲しい一心で、私が彼の名前を呼ぼうと吸った息も、彼の「さ、帰ろ帰ろ」という声にかき消され
彼はいつもの明るい声で私の背中をぽんぽんと叩く
体育祭で無理をしてバスケに支障が出ては意味がないと思いながら彼のことを見上げると
黄瀬くんは「そんな心配な顔しないでよ、オレ明日3競技しか出ないッスよ」とへらっと笑顔を見せた
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作者名:りん | 作成日時:2020年10月21日 5時