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57話 ページ8

いつもの時間。
今日で最後の、放課後に残れる時間。
実はもう旗なんてやることなくて
スプレーをかけて干して、今日の用事は終わり

時計を見ればまだ19時ごろで
彼が来るまでまだ30分もある、と心の中で思いながら私は静かに床に座り込んだ

30分くらいしかお話しできないけど、それでも、私にとっては特別で
学校に残ってでも確保したい幸せな時間だった。
18時まではどこのクラスも旗をやっていて、まだ外が騒がしいから自分も1人な気がしないけど
18時を過ぎるとみんな帰っちゃって少し寂しくなる。

ため息をついて真っ赤に染まった空を見つめ、ぼーっとしていたら、「Aっち」という声が聞こえて

しかしあまりにぼーっとし過ぎてたのか、その声にすぐに反応することのできなかった私は
一瞬の沈黙を破るように「今日は早いの?」と口を開いた

「運動部はほとんど明日の準備に駆り出されてただけッスから、それ終われば部活も終わりッス」


彼は当たり前のようにカバンをどさ、っと置くと、慣れた様子で私の横へと座り込む


「そっか、こっちももう旗やることなくなっちゃった」

騒ぎ始める心臓を誤魔化すようにわたしがそう口にすると、黄瀬くんは鼻で笑いながら続けた

「明日は敵同士ッスね〜」

恥ずかしがる私になんて何も気づいてなさげな彼は、立ち上がると同時に窓枠に手をかける
カーテンから垣間見える彼の横顔が、またわたしの心を乱していくのを感じた

「白組だっけ?」

彼のカバンには白いハチマキが揺れていて
明日持ってくるの忘れないように、と気をつけているのが丸わかりで少し可愛らしい

「そうッス」

オレ白似合わないんスよ〜と少しがっかりした顔の黄瀬くんに
大丈夫、あなたは何を身につけててもかっこいいよ
そう言いかけて息を呑んだ



「明日、誕生日なんだよね…?」

思い出したように問いかけた私に彼は一瞬驚いた顔をして、そうッスね、とふわりと笑う

「ごめんね、私何も用意してなくて…時間あったら買いに行ったりしたんだけど…知ったのも最近で…」

「いいっスよ、明日の優勝が誕生日プレゼントなんで」


「いやいや!優勝はうちらだし!!」

まるで子供のように、得意げな彼に言い返していたら
オレンジの空はすっかり暗くなっていて

私はすっかり時間を忘れていたことに気がついた


この時間、今日が最後なんて。

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設定タグ:黒子のバスケ , 黄瀬涼太 , 黄瀬   
作品ジャンル:アニメ
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作者名:りん | 作成日時:2020年10月21日 5時

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