55話 ページ6
手を洗って教室に戻ると、黄瀬くんは何やら私の手形と自分の手をじっくり見比べながら口を開いた
「ちっちゃい…ッスねー」
優しい声でそう呟く黄瀬くんの手を取り、私が無言で自分の手を彼の手に重ねると
彼はさらに驚いた顔をして、少し耳を赤らめた
無意識になんとなくした仕草にここまでびっくりされると思ってなくて、私も何となく誤魔化しながら笑う
「さすが男の子だねー、大きさ全然ちがう」
黄瀬くんの手を吟味しながら、やっぱり大きいし、なによりも指が長くていいななんて考えて
そんなわたしの顔を見て「これでおんなじボール持ってるんスもんね、」と口を開いた黄瀬くんが
解せない、と笑った
視界に写る黄瀬くんの顔はいつも通り美しい
黄瀬くんは、なんで今日も私の教室に来てくれたのだろう
黄瀬くんは今、何を思っているだろう
その瞳に映る私は、たくさんいる女のうちの1人なのだろうか
自問自答するうちに心が苦しくなったわたしは、手をそっと離し黄瀬くんの目をじっと見つめた
「黄瀬くんはなんで、今日も来てくれたの…?」
特に何も考えずに口を開いたら、まさか自分が無意識に質問するはずのない馬鹿な質問が口から漏れていて
自分が何を言ったか理解するのと同時にだんだん熱くなる顔に耐えきれず、わたしは思わず目を逸らす
その一瞬、彼がそっと唇を噛んだのを私は見逃さなかった
「夜、こうやって友達と話すの楽しいじゃないスか」
少し流れた沈黙を破った言葉はわたしの期待していたものではなくて
ふわりと笑った黄瀬くんをみて、少し胸が痛んだ気がした
それに…と続けて話し始めた黄瀬くん
「残って練習するのって、結構ハードなんすけど…終わった後も誰かと話せる、って思ったら頑張れるんスよね」
日の落ちた教室で照らされる彼の顔は
私にとって複雑なもので
「そっか」
その一言で、期待や夢や幻想を全て自分の中に飲み込んで
私も少し、唇を噛んだ
「どうせ明日で終わりだし、明日も来てよ」
夜テンションだろうか
そんなことを口走っていた私に
黄瀬くんは、喜んで、と王子スマイル
私たちはまた一緒に教室を出た
バス停まで送る、と言って聞かなかったので、仕方なく送ってもらった。
こんなにまた距離が縮まって、
また離れて、
縮まって、
私の心臓は持つのだろうか
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作者名:りん | 作成日時:2020年10月21日 5時